主君の石田三成と比べると、メーンのキャラクターとして物語化されることが少なかった島左近に注目した。著者の若手作家、谷津矢車さんは2012年、『蒲生の記』で第18回歴史群像大賞優秀賞受賞。このところ、時代物の作品を着実に送り出している。今回は客将としてのキャリアや武将としての流転のヒストリーを、関ケ原の戦いでの「最期」をハイライトに小説化した。
関ケ原で左近を討ち取った黒田長政軍の兵士らは戦後、左近の勇猛な戦いぶりと壮絶な最期の様子が悪夢となってよみがえったことを伝えているが、本書でも、生まれながらの武将として描かれる。
筒井順慶の重臣だっが、順慶亡き後、筒井家とうまくいかず出奔。武名が高い左近の元には仕官の話が数多く舞い込むが、戦での活躍を望み、陣借り(雇われ)という形で、豊臣秀長、蒲生氏郷、そして三成の客将となる。
徳川家康との天下分け目の大戦が迫るなか「天下の陣借り武者、島左近。死ぬまで治部殿(三成)の陣に陣借り仕る」と決意を述べる。大戦に魅入られた猛将は、天下を二分とする関ケ原の戦いでその実力を発揮する―。「三成に過ぎたもの」とされた左近だが、本書では、三成が主君というより、お互いを利用し合うというような関係で描き、そのタッチが新しい。
評者の文芸評論家、縄田一男氏は「作者は左近の流転のさまや、関ケ原の合戦へ向けての諸将の動向など、最新の資料をもとにして物語を紡ぎ、これまでにない仕上がりとした」と評している。
左近にスポットを当てた小説には15年に出版された、火坂雅志さんの遺作「左近」(上・下)」があるが、火坂さんは同作執筆中に亡くなり未完。
関ケ原では左近は、大谷吉継とともにその遺体が見つかっておらず、戦後に京都での目撃証言あるなどして落ち延び説も出されている。
本書の結末は人間の業を描き哀感が漂う。
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