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失われた日本の美しさ ひとびとは明るく生きていた

逝きし世の面影

 江戸時代末期から明治の初めにかけて、多くの欧米人が日本を訪れ、見聞記を残した。イザベラ・バードの『日本奥地紀行』が有名だが、それ以外にも多くの記録がある。それらを渉猟し、近代日本が失ってきたものの意味を問うたのが本書である。  そのころの日本の庶民の暮らしは、ただ貧しく暗いものではなかった。たとえば、スイスの使節団長として1863(文久3)年に来日したランベールは「みんな善良な人たちで、私に出会うと親愛の情をこめたあいさつをし、子供たちは真珠色の貝を持ってきてくれ、女たちは、籠の中に山のように入れてある海の不気味な小さい怪物を、どう料理したらよいか説明するのに一生懸命になる。根が親切と真心は、日本の社会の下層階級全体の特徴である」と記している。  バードもこう書いている。「私は一度たりとも無礼な目に逢わなかったし、法外な料金をふっかけられたこともない」  自然と折り合いをつけながら、つましくも日々のくらしを楽しみながら生きている人々の姿が描かれている。  文章だけではない。レガメ、ビゴーらの書いた絵が挿絵として豊富に掲載されているのだ。風景は美しく、人々は生き生きとしている。現代の我々が、アフリカや南米の紀行番組を見て、癒されたり、感動したりするのと同じようなものだろうか。

日本の近代の意味は

 著者の渡辺京二は、熊本の在野の著述家である。水俣病についての著作で知られる石牟礼道子さんを支えてきちことでも知られる。本書は福岡県の葦書房から1998年に出版され、幻の名著となっていたものが、2005年に平凡社ライブラリー版として再び、世に出たものだ。  日本の近代化によって、自然の中に工場が建設され、人々の収入も増えた。水俣病は、そんな日本の近代化がもたらした負の部分の象徴だろう。著者が熊本にくらしながら、本書を書いた根底には、そうした風景への違和感があったのではないか。  本書のあとがきには、タカ派で知られる平川祐弘東大名誉教授が賛辞を寄せ、石原慎太郎氏が本書を高く評価していることを紹介している。「温故が蔑ろにされてしまった」とも書いている。たしかに戦後の民主主義イデオロギーによって、日本の前近代性は全否定されてきた。江戸時代は「暗くて、貧しかった」と刷り込まれた。  著者は「在りし日のこの国の文明が、人間の存在をできうる限り気持のよいものにしようとする合意とそれにもとづく工夫によって成り立っていたという事実だ」と強調する。失われたものを哀惜するだけでなく、いま、この日本をどうしていくのか? そんな前向きな感想も出てくるだろう。若者の地方移住や農業への志向は、失われた日本を回復しようとする壮大な試みなのかもしれない。


(BOOKウォッチ編集部JW)
  • 書名 逝きし世の面影
  • 監修・編集・著者名渡辺京二 著
  • 出版社名平凡社
  • 出版年月日2005年9月 1日
  • 定価1,900円+税
  • 判型・ページ数B6変判・606ページ
  • ISBN9784582765526
  • CコードC0321

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