大手マスコミの事件記者の中で、著者の今井良さんほど、新書を連発している人は少ないだろう。目につくところを拾っていくと、2014年の『警視庁科学捜査最前線』 (新潮新書)を皮切りに、17年は『マル暴捜査』(新潮新書)、『警視庁監察係』(小学館新書)、そして本書『テロvs.日本の警察 標的はどこか? 』(光文社新書)とフル回転だ。
1974年千葉県生まれ。経歴を見ると、中央大学文学部卒業してNHKに入局し、地方局や東京の報道局ニュースセンターでニュース番組の制作に10年携わり、その後、民放テレビ局に移った人らしい。本業の記者業務はどうなっているのかと心配になるほどの多作ぶりだ。
いわゆる事件記者の本の中でも、本書は特殊だ。あまり世間の関心がないと思われる公安関係を扱っている。世界的に近年、テロが相次いで不安が増しているが、日本は別世界のように静かだ。かつては連続企業爆破事件や、日本赤軍によるハイジャック、襲撃事件が多発したが、遠い昔の話になって忘れられている。テレビの警察ドラマで主役になるのはいつも、殺人などを扱う「捜査一課」だ。
しかし、著者はこう強調する。
「2020年に東京五輪を控える日本も、テロと決して無縁ではないではない。首都・東京の治安を守る警視庁では、徹底したテロ対策が進んでいる」
狙われやすい場所はどこか、テロリストの入国は防げるか、どんな対策が取られているか、などを順次説明している。成立までにいろいろあった共謀罪について警察関係者は著者に「これで、テロリストに大きく網をかけることができる。この法案は我々の強力な武器になる」と話したという。
テレビ記者の出版物としては、日本テレビの清水潔さんによる『殺人犯はそこにいる―隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』(新潮文庫)などの一連の調査報道本が有名だ。本書はそうした告発的な本ではない。どちらかというと、マスコミの事件記者一年生などが、勉強用に読んでおくと、知識が整理されるという種類の本だ。
じっさい別著『マル暴捜査』についてのアマゾンの読者評でも、「思うに、この本は警察の広報にアプローチして取材協力を得て書いたのではないでしょうか。具体性や迫力に欠ける」という指摘があった。本書も、最近の事件の具体例が乏しいので、シミュレーションや海外の話が続く。「テロvs.日本の警察」というが、テロリストの姿が見えない。
参考図書は多くないが、『日本の公安警察』(青木理著、講談社現代新書)、『公安は誰をマークしているか』(大島真生著、新潮新書)などが挙げられている。本書は、どちらかといえば後者に近いといえよう。日本の公安警察の活動ぶりが、大々的に漏れてしまった「公安テロ情報流出事件」に関した書物は入っていない。
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