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「幸せになる道は一つではない」 水野敬也『夢をかなえるゾウ4』に至る5年間の変化

  • 書名 夢をかなえるゾウ4 ガネーシャと死神
  • 監修・編集・著者名水野敬也
  • 出版社名文響社

累計400万部シリーズのベストセラー小説『夢をかなえるゾウ』。
その最新作となる『夢をかなえるゾウ4 ガネーシャと死神』(文響社刊)が7月に出版された。

前作『夢をかなえるゾウ3 ブラックガネーシャの教え』から約5年の歳月を経ての本作は、余命3ヶ月を宣告された家族を愛する会社員が、ガネーシャの教えに従いながら、死ぬときに後悔を残さないように自分自身を変えていくというストーリー。
また、「夢をかなえる」ということを根幹から問い直し、「どうしようもないこと」にどう向き合うかという、これまでの自己啓発書の本流とは一線を画すテーマが含まれている。もちろん、主人公とガネーシャの漫才のようなやり取りは健在だ。

新刊JP編集部は作者の水野敬也さんにお話をうかがい、『夢をかなえるゾウ3』からの5年の変化、そして作中に出てくるガネーシャの「偉人たちは夢をかなえていない」という言葉の真意について聞いた。

(取材・文:金井元貴)

■「結局はガネーシャの掌の上で遊ばされていた」

――新作となる『夢をかなえるゾウ4』を読ませていただきましたが、これまでの「『夢をかなえるゾウ』らしさ」を感じつつも、少しトーンが違うとも感じました。

水野:そうですね。これまでのシリーズを読んできた方からすると、トーンが違うと思われるかもしれません。

『夢をかなえるゾウ3』までは世の中にある成功法則を凝縮する形で書いてきました。けれども、その後、「夢をかなえるだけが幸せではない」と思う経験をたくさんしたんですね。そこで2年ほどそのテーマで書こうとしていたんだけど、なかなか上手く書けなかった。
ちょうどある人から「そのテーマで『夢をかなえるゾウ』を書くべきなのではないか」とアドバイスをもらって、そうしてみようと。

今回は「死」というモチーフを扱っています。死は誰にも平等にやってくるものですが、その一方で、人の夢を必ず断ちますよね。「好きな人とずっと一緒にいたい」という夢を持っていても、死によって分断される。だから、夢を持ち続けていると、いつかはそれを手放さないといけなくなる。そこから、この『夢をかなえるゾウ4』のテーマに辿りつくんです。

――そのアドバイスをした人はどんな人なんですか?

水野:今、担当していただいている編集者ではなく、別の編集者です。ただ、直接一緒に仕事しているわけではないので、作品に対して自由に言い合えるような関係です。

――そのアドバイスは水野さんの中でストンと落ちたのですか?

水野:僕の中で『夢をかなえるゾウ』シリーズは大きな存在で、このシリーズを超えるものを書きたいという思いはあります。でも、結局ガネーシャの掌の上で遊ばされているんですけどね。

もともと2年かけて書いたものを元に『夢をかなえるゾウ』を書けば、それは面白くなりますよ。自分の中では屈服した感じではあるんですけど(笑)、書いてみるとすごく正しい選択だったなと思いますし、先ほど「ちょっとトーンが違うと感じる」とおっしゃいましたけど、これまでの『夢をかなえるゾウ』の流れで、このテーマが来るのは必然だったなと思います。

■前作から5年の間に起きたこと。幸せになる道は一つではない。

――さきほど「夢をかなえるだけが幸せではない」と思う経験がたくさんあったとおっしゃいました。『夢をかなえるゾウ3』から本作が出るまでに5年あいていますが、その間の水野さんの中での心境の変化について教えていただきたいです。

水野:『夢をかなえるゾウ』で自分は確かに夢をかなえてきたけれど、幸せになれたかというとそうではなかったんです。

例えば、自分の著作の『LOVE理論』や『スパルタ婚活塾』がドラマ化されたんですけど、原作者なのにドラマの打ち上げで意外と居場所がなくて(笑)。これは、『夢をかなえるゾウ1』のドラマ化のパーティーで居場所がないと感じたのと同じなんですよね。同じところをループしていて、気づいたら最初に戻るみたいな感覚を味わったんです。

また、2015年から「見た目問題」に興味を持つようになって、『顔ニモマケズ─どんな「見た目」でも幸せになれることを証明した9人の物語』という本を2017年に出しました。

この本では、NPO法人の協力のもと、「見た目問題」を抱えている方々にインタビューしてるのですが、そのなかで、顔の傷などの症状を手術をしても治らない方もいらっしゃいます。そういった方は、症状と共生していかないといけないんです。もちろんその問題を受け入れているわけではなくて、いまだに悩んでいる方もいます。そうした悩みの中でどう折り合いをつけていくか。

そういう人たちの話を聞くことで、自分が持っていた「知名度を上げて収入を得る」という夢は、単に「資本主義のピラミッドを登っていく」というカテゴリの一つでしかなくて、幸せになる道はそれだけではないということに気付かされたんです。

――『顔ニモマケズ』はノンフィクション本で、水野さんの著作の中ではかなり異端ですよね。

水野:読者目線から見ると、そうかもしれません。でも、自分の中では『LOVE理論』の系譜の本なんです。

結局は恋愛って生まれつき持っているものの影響が大きいですよね。ルックスも運動神経もそうじゃないですか。じゃあ持ってない人はどうしたら救われるのか。資本主義のピラミッドを登っていく方法もあるけれど、登れない状態の人もいます。そういう人は幸せになれないかというと、そんなわけがないんですよ。

僕が14歳の頃からそのテーマを突き詰めて考えてきた結果が、『顔ニモマケズ』であり、『夢をかなえるゾウ4』なんです。

■「どうしようもないこと」と向き合った人たちの選択

――『夢をかなえるゾウ4』で個人的に印象に残ったのが、夢をかなえられなかった偉人たちをガネーシャが語るところです。

水野:あのシーンは僕も大好きです。

――偉大な仕事をした人たちは「夢をかなえた」と思われているけど、実は「夢をかなえられなかった」。

水野:そうなんです。それに、彼らが夢をかなえられなかったことを、みんな忘れているんですよね。ウォルト・ディズニーもガンジーもみんな偉業を達成した人と見られているけれど、必ず志半ばでこの世を去っているんです。

――アインシュタインもエジソンも。

水野:ガネーシャが挙げる偉人たちって、ほとんどは産業革命以降の人たちなんですけど、実はその時代以降って一つの価値観しかないんです。夢をかなえようとして頑張る。

ただ、自分が自己啓発というジャンルの中でずっと本を書き続けてきて分かったことは、結局、光と闇は同居していて、夢をかなえれば全てが光に包まれるのではなく、闇がやはり存在するということなんです。それは多くの人にとっては魅力的ではない話かもしれないけれど、事実としてそうなっている。

じゃあ、何をしても闇が存在するのだから、何もせずに諦めるのか。そこは個人が選択できるのだと思います。『顔ニモマケズ』をはじめ、外見に悩む数多くの人にインタビューをしてきたのですが、印象的だったのが、美容整形をした人、していない人どちらもいるんですけど、やり切った人は一様に自分の選択に納得をしているんです。

ただ、もちろんそれは「美容整形をしたほうがいい」という答えにはならなくて、重要なことは自分自身でそれを選択したということ。その先に納得があるんじゃないかと思うんです。

それは一つの希望で、『夢をかなえるゾウ4』では実は偉人たちも夢をかなえられなかった。でも、それでも夢を追い求めるかどうか。読者の方にあなたが望むものは何かを考えてもらえる作品になっていると思います。

――『夢をかなえるゾウ4』の主人公は物語の中で「どうしようもないこと」と直面します。でも、どうしようもないと分かっていても、やり切ることは大事だと思います。

水野:向き合う姿勢というかね。実は『夢をかなえるゾウ4』で言っているメッセージは、僕が中学生時代に読んだ心理学の本に出てきていたんですよ。ただ、そのときは到底受け入れられなくて、『LOVE理論』で「妥協するな」と書いちゃうわけですけど、そうしたプロセスを経て、ようやく「偉人たちはみんな夢をかなえられなかった。志半ばだった」というガネーシャの言葉が出てきたのかなあと。

――『夢をかなえるゾウ』シリーズは累計400万部と日本の出版史に残るベストセラーです。それでも水野さんご自身は成功を得られていないという感覚なのでしょうか。

水野:まだまだだなという思いはあります。ただ、以前は『ハリー・ポッター』は億を超える部数だから、累計400万部の『夢をかなえるゾウ』はその何十分の一の価値、みたいな感覚を持っていた時期もありますが、今は一つの物差しで価値を測ること自体がナンセンスだと思っています。

『夢をかなえるゾウ3』を出した2015年以降は、自分は誰かを癒したり、救えたり、サポートできているのかということを気にしていますし、自分自身は今、現代社会によって惨めな気持ちを感じている人たちを救うために存在していると思っていて、そういう人たちにアプローチできていなければ、僕は成功していないという価値観になっているんですよね。個人的な感触としては、まだまだだなと。

(後編に続く)

■水野敬也さんプロフィール
愛知県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。著書に『夢をかなえるゾウ』シリーズ、『人生はニャンとかなる!』シリーズほか、『運命の恋をかなえるスタンダール』『顔ニモマケズ』『サラリーマン大喜利』『神様に一番近い動物』『たった一通の手紙が、人生を変える』『雨の日も、晴れ男』『四つ話のクローバー』『ウケる技術』など。また、鉄拳との共著『それでも僕は夢を見る』『あなたの物語』『もしも悩みがなかったら』、恋愛体育教師・水野愛也として『LOVE理論』『スパルタ婚活塾』、映像作品ではDVD『温厚な上司の怒らせ方』の企画・脚本、映画『イン・ザ・ヒーロー』の脚本を手掛けるなど活動は多岐にわたる。

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