A Iや5G、量子暗号、ブロックチェーンなど、日々進歩する技術は私たちの生活を大きく変える。
ニュースを見ていると、漠然と「変わる」ことは想像がつくが、どんな人がどんな風に技術を使い、世の中を変えていくのかを考えることは、たぶんあまりないのではないか。最先端の技術は、開発にも、実地のビジネスへの応用にも、企業への導入にも、多くの人がかかわることになる。どんなに技術が進み、自動化、機械化が進んでも、泥臭く、粘り強く、自分の仕事に取り組む「人間」の姿はなくならない。
『HumanITy ヒューマニティ』(幻冬舎刊)は、システム開発の現場を垣間見ることができる「職業小説」であり、大規模プロジェクトの成功を阻止すべく暗躍する組織との闘いを描いたサスペンスでもある。
製鉄所のシステム構築を皮切りに、多分野にシステムを提供するアイアン・ソリューションズの橋本花は、人事異動で研究職からクライアント企業のシステム開発・運用を請け負う部署にやってきた。ただでさえ、はじめての「現場」で緊張しているのに、あろうことか花は、プロジェクトマネージャーである本郷颯大の下で、現在進行中のプロジェクトのチームリーダーを任されてしまう。
しかも、取り組む案件は生産管理と物の運搬を自動化し、AIが管理する製造業向けのスマートシステムを「青葉山河製作所」の工場に導入するというもの。「ファクトリー5・0」と銘打たれ、国家的にも注目されている一大プロジェクトだった。
チームリーダーという慣れないポジションに加えて、プロジェクトの途中から放り込まれた形になった花の奮闘が始まる。彼女のチームは生産管理の自動化システムの構築を担当していたが、すでにシステム開発はユーザーテストフェーズに入っていた。花たちのチームが設計したシステムを、青葉山河製作所の工場で実際に使ってテストする段階である。
ただ、このテストフェーズが難航し、現場からは数多くの改善要望が集まっていた。中には「まったく使えない」という否定的な意見や、そもそもこれまで人の手でやっていた生産管理を自動化すること自体への感情的な反発もあった。
こうした現場からの意見をまとめあげ、システムの修正ポイントをチームのプログラマー陣に伝えるのが花の仕事。しかし、まだプロジェクトの全体像がつかめていない彼女が導き出した修正ポイントは、百戦錬磨のプログラマーたちにことごとく反論されてしまう。
チームメンバーからの信頼を得られず苦しむ花。さらに悪いことに、システムの本番データを誤って削除するという、大チョンボをやらかしてしまう。
そんな折、実際にシステムを導入する青葉山河製作所の仙台工場に行き、現地従業員にシステムの改善ポイントをヒアリングする任務が与えられる。失地回復のため、張り切る花だったが、その裏でプロジェクト全体を失敗に終わらせるための、ある陰謀が進行していた。
陰謀を企てる組織は、プロジェクトにかかわるメンバーの中にスパイを送り込み、プロジェクトの進捗状況や突き当たっている問題点を把握していた。花の奮闘により、少しずつ軌道に乗ったプロジェクトだったが、魔の手は着実に迫っていく......。
システム構築・企業への導入の現場の空気感や、納期が迫る緊張感が生々しく伝わってくるのは、この作品の5人の共著者陣が、ほかならぬこの仕事に従事する「現役技術者」だからだろう。そして、プロジェクトに潜入したスパイがどこに潜んでいるのか、物語の最後までまったくわからないサスペンスとしての仕掛けもいい。
「職業小説」「お仕事小説」としても、サスペンス小説としても、最後まで気が抜けない一冊だ。
(新刊JP編集部)
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