世界陸上選手権のハードル競技で銅メダル獲得2度。シドニー、アテネ、北京と3度の五輪に出場し、男子400メートルハードルの日本記録保持者(2020年4月現在)でもある。為末大氏は日本陸上界で数々の伝説を築いてきた。
ただ、厳しいアスリートの世界で第一線を走ってきた為末氏が大切にしていることは、意外にも「遊び」なのだそうだ。
『新装版-「遊ぶ」が勝ち』(為末大著、中央公論新社刊)では、為末氏が陸上選手として行き詰まった時期に遊ぶことの大切さを教えてくれた愛読書『ホモ・ルーデンス』(ホイジンガ著)の内容を引きながら、「遊び」を取り入れた生き方を紹介する。
為末氏はどのようにスポーツと遊びを自分の中で共存させたのか。
為末氏が、初めて五輪に出場したのは2000年のシドニー大会。マイペースでいようと考えていても「国を挙げて応援される」というプレッシャーや国を背負う義務感に呑まれそうになっていたという。
当時の日本は今と雰囲気が違い、選手は「楽しんできます」などとは言えない雰囲気だった。
一方、選手村で見た海外選手たちは、日本選手団と違って国を背負っているという悲壮感が少なく、むしろ「楽しんでやっている」ように見えたという。そして、「国を背負わない」外国人たちが、結果的にはいきいきと楽しく競技に臨み、良い結果を出していたのだ。
シドニー大会で為末氏は予選敗退に終わり、環境を変えるため、翌年から海外レースに参戦するようになる。日本を出て、世界の一員という意識を持って競技をするためだ。
海外レースに参加する過程で、為末氏は自身に生まれた変化を感じとったそう。しがらみから離れて、ふっと自由になった感じ。日本では有名選手だったが、海外では「東洋から来た、走る人」という見方で、為末大という役割を演じる必要もなく、楽な気持ちになっていた。そうしていると、また走ることが楽しくなってきたという。
そして、『ホモ・ルーデンス』の中にあった「努力を実現するために、人間に先天的に与えられている機能、それが遊びなのだ」という言葉に出会った為末氏は感動し、スポーツの根っこには間違いなく楽しさと遊び感覚があるのだ、と改めて実感する。「遊び的感覚」を肯定できるようになったのだ。
スポーツだけでなく、ビジネスでも「遊び」は必要だ。新しい企画など、何か新しいことを生み出すには「遊び」という余白が大切だからだ。
「遊び」のすごいところは、人を夢中にさせてくれたり、我を忘れて没頭させてくれるところだと為末氏は述べる。陸上選手時代に、いくら努力してもできなかったことが、夢中で取り組むことでその壁を超えられた経験もしている。苦しく、忍耐を強いられる「努力」よりも「夢中」が勝るものなのかもしれない。
日々の忙しさの中にも、どこかで「遊び的感覚」は持っていることで、より良い結果を生み出せるはずだ。
(T.N/新刊JP編集部)
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