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千鳥CM起用のスマートニュース「クーポンチャンネル」を生んだマーケティング手法

大悟「このクーポンチャンネル最近知ってよ」
ノブ「あークーポンな」
大悟「そう店ごとにズラーっと並んでんよ」
ノブ「すごい量やな」
大悟「そうそう便利やから毎日つこーとんのよ、貴様は?」
ノブ「貴様?」
2人「スマートニュース 今すぐダウンロード」

人気お笑いコンビ・千鳥を起用したニュースアプリ「SmartNews」のテレビCMを見たことがある人は多いだろう。大悟さんがノブさんに「貴様は?」とナチュラルに呼び掛けるこのCM「呼び名」篇は2018年3月より放送が開始され、人気を博した。

実はスマートニュースはこの時、「呼び名」篇を含めて6種類のCMを用意していた。その仕掛け人であり、当時スマートニュースに在籍していた西口一希氏は「クーポン」と「クーペン」と言い間違える「クーペン」篇が気に入っていたというが、少量出稿によるテストマーケティングを行ったところ、「呼び名」篇の反響が大きかったという。

■1000人の声よりも重要。1人の顧客はアイデアの宝庫?

企業側が考えていることと、顧客が実際に求めているものが違っていたということは少なくない。
自分たちとしては魅力的な商品を生み出したと思っても、そこに顧客のニーズがなければ購入してもらうことはできない。だからこそ、魅力的な商品やサービスを開発し、顧客に継続的に購買、使用してもらうための「マーケティング」という活動が必要になる。

ただ、そうはいっても言うは易く行うは難し。また、西口氏は、特定の役職者や部門の決定権や影響力を持つ属人的なリーダーシップを持つようになると、「お客様が最も大事」ではなくなると指摘する。つまり、組織が属人化すると、顧客の方向を見なくなりがちになるのだ。
こうなると、顧客のニーズや考えていること、困っていることを無視したサービスやプロダクトが生み出されていき、せっかく開発した商品も顧客に届かないまま失敗に終わるということにつながる。

西口氏が執筆した『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』(翔泳社刊)は、2019年4月に出版され、話題を呼んだビジネス書だ。
一人の顧客の徹底した理解から導き出した「アイデア」を展開し、各顧客セグメントの人数や構成比が動いたかを可視化・定量化して検証する「顧客起点マーケティング」について、西口氏がP&Gやロート製薬、ロクシタン、そしてスマートニュースまでの経歴の中から自身の経験を交えつつ説明する一冊である。

さて、冒頭の千鳥のテレビCMはスマートニュースに当時新しく開設された「クーポンチャンネル」をPRするためのものだった。

この「クーポンチャンネル」は、顧客起点マーケティングにおける「N1分析」から生まれたアイデアだ。
「N1分析」とは、端的に言えば1人の顧客を深堀りするマーケティング手法。西口氏は1000人に広く浅く意見を聞くよりも、1人を徹底的に深堀りしたほうが、具体的に何を提供すればいいのかがはっきりとわかりやすくなると述べる。

ただ、その1人が誰でもいいというわけではない。自分たちも知らない商品の魅力を掘り起こすには、サービスやプロダクトをよく使う(購入する)顧客を選ぶ必要がある。そこで西口氏は顧客を大まかに5つに分類する。
例えば、下記は毎日使ったときの購買頻度が2~4か月程度のスキンケア製品の場合の顧客の分類となる。

Q、ブランドAを「知っている」
→No=「未認知顧客」/→Yes 次へ
Q、「買った(使った)ことがある」
→No=「認知・未購買顧客」/→Yes 次へ
Q、「その頻度は」
→年2回以上=「ロイヤル顧客」/年1回以下=「一般顧客」/今は使っていない=「離反顧客」

さらに「認知・未購買顧客」以降の4つの顧客には、「次も購入/使用したいブランドはどれか(自社と競合ブランドを列記)」という設問を加え、それぞれに「積極的・消極的」を付け加えた9つのセグメントに分ける。

「クーポンチャンネル」は、この9つのセグメントに基づく30人以上へのN1インタビューの中で、扶養家族のいる男女及び子どものいる主婦層が、クーポン使用のためにアプリを多数入れていることが分かったことで創出された「アイデア」だった。

本書の4章では、西口氏がスマートニュースで行った「N1分析」と「アイデア」の創出の過程を披露しているが、そこでは30以上の「アイデア」候補が作られたが、その多くは一部のターゲットにしか響かないような、一見ニッチなものだったようだ。「クーポンチャンネル」もその1つだったが、アイデア自体が好評で、獲得できる可能性のある顧客層も多く見られたことから、リーチの広いテレビCMを活用して投資すべきという判断に至ったという。

■マーケティングの新たな教科書といえる一冊

顧客起点マーケティングとは、いうなれば「(自分たちが)何が作りたいか」ではなく、「(顧客が)何を欲しているか」「(顧客が)何があれば便利か」というところからスタートする。西口氏の言葉を借りるなら「特定の誰か一人を喜ばせること、幸福にすること、便利になってもらうこと」が起点なのだ。

前述した通り、顧客はサービスやプロダクトに対して企業側が考えもしなかったところに利便性を感じていることもある。さらに、魅力を感じるまでに辿ったストーリーはもしかしたら再現性のあるものかもしれない。

「コミュニティの時代」と言われているように、企業にとって自社を応援してくれるファン作りが求められている。その中で、今いるファンたちはなぜ自社や自社の商品に対して魅力を感じているのかにヒントを探ない手はないだろう。

本書ではそのための分析手法、そしてアイデアを創出する考え方を教えてくれる。マーケティングの新たな教科書といえる一冊だ。

(新刊JP編集部)

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