人が育たない、チームがうまく機能しないなど、自分のマネジメント能力のなさに悩むリーダーは多いはず。
まして、今は黙って目の前の仕事を回していれば会社の業績が上向く時代ではない。新しいビジネスの立ち上げや、無理難題に思える目標を課されて四苦八苦している人もいるだろう。
ビジネス自体の難易度が高まっている今、リーダーに必要なのはどんな能力なのか。
『逆境のリーダー ビジネスで勝つ36の実践と心得』(集英社刊)の著者で、三井住友信託銀行でリーダーとして辣腕を振るってきた大塚明生さんにお話をうかがった。
――『逆境のリーダー ビジネスを勝ち抜く36の実践と心得』についてお話をうかがえればと思います。大塚さんと言えばこれまで投資や資産運用についての著作が知られています。今回「リーダー」についての本を書いた理由を教えていただきたいです。
大塚: 直接のきっかけは、2011年から4年間、勤めている三井住友信託銀行で自分の出身大学の学生に向けた就職セミナーのスピーカーをやったことです。その時に「本当の意味で独自性のある仕事、付加価値の高い仕事にはえてして失敗がつきもの。となると失敗を許す風土のある会社でないと独自性のある仕事はできない。うちにはそれがあるから、ぜひ入って自らを鍛える道を選んだらどうか」という話をしたら、多くの反応をいただきました。
それならば、独自性のある仕事をどうやって形にするかというところも伝えたいと思ったんです。一人でできる仕事は限られていますから、おもしろい仕事をしようと思ったらリーダーを目指さなければいけませんし、リーダーになったら部下を率いないといけません。
だからこの本では、これまで自分がやってきたことを振り返りながら、自分なりのリーダー像を書いたんです。
――大塚さんご自身も、リーダーとして責任のある立場で長く仕事をされてきました。振り返ってみて一番の苦境や逆境はいつだったと思いますか?
大塚:普通に答えるのであれば、2000年以降は世界同時株安あり、ITバブル崩壊あり、厚生年金基金の代行部分の返上あり、リーマンショックありと、私のいる金融業界や資産運用の世界は常に逆風でした。
ただ、私のことをよく知る部下には「大塚さんには逆境はなかった」とも言われるんです。なぜかというと、逆境が本当の苦境に陥る前に先手を打ってチャレンジしたからだと。
それは私が三井住友信託銀行の企業年金事業のビジネスモデルを改革したことを言っているんだと思います。業界的に逆風続きだったとはいえ、ほとんどの人はまだ大丈夫だと思っていたやり方を一度壊して、再構築することの方が反対する人も多くよほど難しい。でも、それができたから新たな成長に入ることができた。そうした経験を通して得たものを、この本で伝えられたらと思っています。
――本書で書かれている「猫を集めて犬にする」とは独特な言い回しですが、猫的に勝手気ままな方向に向いた部下を、協調性を持った犬的に束ねるというところで、マネジメントの本質的な課題だとも感じました。これを実現するためにリーダーはどのような取り組みをすべきでしょうか。
大塚:はじめに「猫タイプ」の人間がどういう人間かをお話しますと、「何になりたいか」よりも「何をやりたいか」が先に立つ人です。我が道を行くタイプですね。
「何になりたいか」というのは、たとえば会社で昇進して「部長になりたい」というようなことですが、こういう人は昇進に響くという考えがどこかにありますからえてして失敗を恐れるんです。「何をやりたいか」が先に来るタイプだとその点は大丈夫なのですが。
新しい市場を生み出したり、新しいビジネスを作るといった独創的な仕事をする時に必要なのは後者のタイプです。じゃあどうやって両者を見分けるかというと、自由にやらせてみればいい。つまり仕事の障壁を全部取り除いて、本人の好きにできる環境を作ってあげるのですが、その代わりに失敗した時の責任は取ってもらいます。
そうすると、おもしろいことに「何になりたいか」の人間は、そもそも自分の好きに仕事ができる環境を喜ばないんですよ。失敗したら自分の責任になってしまうから。一方で、「何をやりたいか」の人は、自由にやらせると嬉々として取り組みます。
こうした特徴を持つ「猫タイプ」の人間をマネジメントしていくために、上司には「失敗を許す風土づくり」が必要です。「独創的な仕事」というのは言い換えれば「難しい仕事」ですから、失敗はある程度仕方がない。いかに思い切りよくチャレンジできる環境を作れるかが上司には求められるんです。
――部下がついてこなかったり、成果を出せない上司についてもうかがいたいです。
大塚:部下に手本を見せられない上司、責任を取らない上司でしょうね。
昔の日本の軍人に大山巌という人がいて、日露戦争で元帥陸軍大将を務めた人なのですが、部下には「お前に任せる、俺は口を出さないからしっかりやれ。責任は俺がとる」というタイプだったそうです。
こういうところに憧れて、自分のことを「大山巌タイプ」だという上司がいますが、ほとんどは「ニセ大山巌」で、部下が実際に失敗すると「俺はそんなつもりで言ったんじゃない」と、部下に任せるようなことを言ったのは自分なのに、責任を取ろうとしないものです。そして自分が先頭に立って手本を見せるわけでもない。こういう上司に部下はついていきませんよね。
(後編につづく)
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