■水汲みのために 学校をあきらめる子どもがいる
日本には「湯水のように使う」という言葉がある。昔からこの国では水やお湯は、「無尽蔵にある」「いくらでも使える」ものの象徴だった。
今では全国津々浦々に上下水道網が完備され、「蛇口をひねれば水が出る」ことが当たり前の生活に慣れて、ますます水のありがた味を私たちは忘れたかもしれない。
■日本の生活は世界の非常識
だが、こんな生活はひとたび世界に目を向けたならば、実は21世紀の今も例外なのだということに気づかされる。
水を手に入れるために日々、筆舌に尽くし難い苦労を強いられている国はいくらでもある。そうした国々では、水汲みは女性や子どもの仕事と見なされ、就学年齢にある子どもたちが毎日何時間もかけて、何キロメートルも離れた水源から水を運んでいる。
彼らのために学校を建てたとしても、水汲みの労働から解放されない限り、彼らは学校に通って勉強することもできない。実際、水汲みのために、学校に通うことをあきらめた子どもたちがいる。水がなければ彼らも家族も生きてはいけないのだから。
蛇口をひねれば水が出る。そんな、我われが無意識に抱いているであろう「常識」は、実は世界では例外的な少数派であることをご存知だろうか?
■日本、そして世界の大地に井戸を掘り続けた男たちの100年の物語
井戸を掘り続けて107年になる会社がある。日本初のエンジン動力式さく井機(井戸を掘削する機械)を発明し、業界のパイオニアとして日本中、そして世界の大地に井戸を掘り続けてきた株式会社日さくである。
「一滴でも多くの水を、一人でも多くの人へ」。この理念のもとに明治から平成まで、日本のみならず世界を舞台に、幾つもの不可能の壁を乗り越えてきたのが彼らの誇りだ。
『井戸を掘る 命をつなぐ――創業明治45年のさく井工事会社、100年の軌跡』(若林直樹著、ダイヤモンド社刊)は、その史実を描いたものだ。現社長自らの書き下ろしである。
若林氏は言う。「さく井という仕事は、まだまだ一般の方にはなじみの薄いものです。我われには業界のナンバーワン企業として、さく井事業というビジネスを世間に広くPRしていく責務があると考えています。本書を通して多くの方に、我われの技術の奥行きの深さや、それに関わる人々の生きざまを知っていただければ幸いです」
■彼らは砂漠のヒーローだった
実は砂漠にも、水はすぐそこにある。彼らの立っている足下に水は眠っている。だが、彼らには手が届かない。
一滴でも多くの水を、一人でも多くの人へ――。日さくはその乾いた大地に穴を掘る。そこからは宝の水が湧きいずる。そのたびごとに村人たちは歓喜し、乾いた大地に笑顔の花が咲き薫る。人々にとって日さくは、まぎれもなくヒーローだった。
私たちはさく井(井戸掘り)のことをよく知らない。しかし本書を手に取った時、その奥深さに感動し、高度な技術力に驚くだろう。日本にこんな企業があることに誇りを持つだろう。そして私たちの置かれた環境に初めて感謝したくなるはずだ。
(新刊JP編集部)
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