東京商工リサーチによれば、2016年の中小企業の休廃業数は、調査開始以来過去最多を記録。休廃業した企業の経営者の年齢は60歳以上が82.3%という数字だ。
多くの中小企業経営者にとって「会社を誰に継いでもらうか」という悩みは出口のない課題になっており、やむなく「廃業」という結論に達するケースが多い。そんな悩める中小企業経営者の救う一手として注目されているのが「M&A」による事業の承継だ。
『M&Aという選択』(プレジデント社刊)の著者であり、M&Aアドバイザリー事業を行う「株式会社FUNDBOOK」の代表取締役CEO・畑野幸治氏に、廃業という選択のリスクと、M&Aという選択の魅力についてお話を伺った。
(新刊JP編集部)
■引退する経営者が「4つの選択肢」から選ぶべき最適解とは?
――まず、一般的な事業の承継には、どのようなパターンがあるのでしょうか?
畑野幸治氏(以下、畑野):選択肢は限られています。
1つ目は、会社を「株式上場」して、パブリックカンパニーとして永続していく。2つ目は、家族や親族、自社の役員など「身内への事業承継」をする。3つ目は、事業や従業員を守ってくれる会社を探して「M&A」をする。最後に、承継を諦めて「廃業」する。この4つの選択肢しかないと思います。
この中で「M&A」が最も現実的で有益な選択だというのが私の考えです。
まず、「上場」はかなりハードルが高いです。全法人のうち上場している企業は0.001%というデータ(*1)があり、高度な経営能力も求められます。 (*約385万社に対して、上場会社は約4000社)
次に、家族や親族、従業員など「身内への事業承継」です。後継者の方がいる場合はこの選択肢を検討する経営者も多いと思います。しかし、身内への事業承継には負債や連帯保証の引継ぎが必要であり、この負担は後継者の方にとって大きいものです。
また、マーケットが縮小している現状では、後継者の方には先代の経営者よりも優秀な経営能力が求められるため、かなり危険度が高いことがわかります。
身内への事業承継は経営者の家族の方だけではなく、従業員やその家族の方々の将来に大きく影響を与える選択なので、身内への事業承継が最適なのかという議論はあっていいところだと、私は思っています。
そして「廃業」は、何より不得な選択です。
廃業は会社の簿価上の資産を売却して現金化していくわけですが、その結果、債務超過に陥ることがあります。手元に資産が残ったとしても、そこからさらに税金がかかり、わずかな資産しか残らないというケースが多いです。せっかく長年会社を守り続けてきたのに、報われない結果になることがほとんどで、こうした「廃業」のリスクを知らない方が、圧倒的に多いです。
「M&A」であれば、そうしたリスクがありません。
譲受先を吟味すれば、優秀な経営能力のある会社に、大切にしてきた事業を引き継いでもらえ、さらに、従業員の雇用も経営者の方の資産も守られる。一番、現実的な選択だと思います。
――実際、中小企業の経営者の方は、「M&A」か「廃業」という二択で考えているケースが多いのでしょうか?
畑野:廃業を選択される方が非常に多いと思います。「後継者がいないから承継ができない。ならば畳もう」と考えてしまうんです。
その原因は、「自分の会社がM&Aをするだけの価値がない」と思っている方が圧倒的に多いからです。
財務知識に長けている方でなければ、株価のバリエーション評価や企業評価といったものの、考え方自体をご存じない方が多いのです。そのため「自分の会社は二束三文にしかならない」と思われている方が非常に多いと思います。
しかし、実際には「純資産3000万円」「営業利益が1500万円」「従業員数3、4名程度」の規模の会社でも、1億円くらいで売買成立するケースが多くあります。このことは多くの中小企業経営者の方に知っていただきたいですね。
■M&Aは創業者が報われる「卒業式」
――「M&A」の相談に来られる方々が、不安に感じていることはどのような部分ですか?
畑野:まず1つは、創業者の方は「自分でなければ、引き継いでもこの企業は運営できない」と思われている方が多いと思います。
もう1つは、M&Aが成立した後に「雇用が維持されないのではないか」「買収先の方針によって、自分が大切にしてきた会社がまったく違う企業カラーになってしまうのではないか」という不安ですね。
――やはり会社そのものや、続けてきたこと、従業員のことを懸念される方が多いのですね。
畑野:オーナー社長であればあるほど、自分自身の利益よりも従業員の未来を考えられている方が多いですね。
これは私自身もまったく同じでした。私は2017年にM&Aで自社を手放したのですが、それまで一緒に働いてきたメンバーたちの幸せを何よりも気にしていました。有難いことに、新たな会社でもメンバーたちは生き生きと働いているようです。
――ご著書『M&Aという選択』の中でも、「関わる人すべてが幸せになるM&A」という言葉がとても印象的でした。
畑野:私は、二十歳で起業をして、創業者としてそれなりの苦労をしてきて今があると思っています。
そして、創業者の引退というのは、言ってみればその方の「卒業式」だと思うんです。
私よりも、もっと長く会社を続けてこられ、日本の経済に貢献し続けてきた中小企業の経営者の方々が、会社に込めた思いはもちろん、金銭的な面でも報われないM&Aというは、そもそも存在意義がないんじゃないかと思うんです。
――創業者が報われない「M&A」というのはあるものなのですか?
畑野:実際的にはあると思います。
ただ、私が自社を手放すことになったときに、もしもそれまで一緒にやってきたメンバーたちが続々と解雇されていったり、新体制になっても不満ばかりで全然ハッピーに過ごせていなかったりしたら、結局、私自身も幸せではないんですよね。
自分だけ勝って、他の人はみんな地獄に落ちる。創業当時から苦楽を共にしてきたメンバーのことを思う社長であれば、そんな結果は誰も望まないはずです。
そういう意味でも、自分自身、自分の家族、従業員、従業員の家族が報われる形に向かって最善を尽くすのが、私たちアドバイザリーの役割だと思っています。
(後編に続く)
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