日本人の平均寿命は、男女ともに80歳を超え、世界でもトップランクの長寿国だ。
しかし、厚生労働省の調査では高齢者の約4人に1人が認知症、あるいは、その予備群ということになっている。
末永く人生を楽しむには、やはり心身ともに健康であることが望ましい。
特に、認知症やいわゆるボケと言われる症状を防ぐには、脳を健康に保つことが大切になってくる。
そんな、健康な脳――「健脳」で居続けるための方法を教えてくれるのが、『死ぬまでボケない 1分間"脳活"法』(帯津 良一、鳴海 周平著、ワニブックス刊)だ。
本書は、たった1分で誰にでもできる、簡単なエクササイズや生活習慣を紹介している。今回は、その著者である健康エッセイスト・鳴海周平さんにお話を伺った。
(取材・文/大村佑介)
■「健脳」習慣は何歳からでも遅くない
――脳活は、何歳くらいから始めておくといいのでしょう?
鳴海:いくつからでも大丈夫なのですが、早いに越したことは無いと思います。
出来れば、30代くらいから始められるのが最高ですね。
ただ、何歳からでも遅いということはありません。80歳、90歳の方でも、脳活をやることによって、健康な脳――「健脳」を維持していけるはずです。
いくつからでも大丈夫、特に、身体の末端を使うことが、脳の活性化につながります。
――私事ですが、私の母親は70歳を超えているのですが、料理好きで趣味がガーデニングなんです。この習慣は脳に良いのでしょうか?
鳴海:ガーディングも料理も、手や指といった末端を使うことなので、非常に良いですね。
特に、料理は、手や指を使いながら、同時に、料理の工程を考えるので、脳の中の様々な領域が活性化するんです。
ガーデニングも、工程を考えながら作業するでしょうし、「綺麗に咲いてくれるかな」とか「こんな色の花が咲くんだ」とイメージをするでしょうから、脳活向きです。他にも編み物などもいいと思います。
――女性は、日常的に料理をしたりして自然と脳活が習慣化されていると思いますが、男性は料理をしない人が多いですよね。シニアの男性ならどのように末端を使うと良いでしょうか?
鳴海:おすすめは「楽器」です。ギターでもピアノでもサックスでも、三味線や尺八、なんでもいいです。若い頃にやっていた楽器でも、まったくやったことのない楽器でも大丈夫です。一番楽しく感じられる楽器の練習や演奏をするのがいいですね。
実は、認知症に掛かりにくい人がやっている、と言われる趣味や習い事が3つあるんです。それは「楽器」と「ダンス」と「ボードゲーム」。この3つの内どれかをやっている人は、認知症に掛かるリスクが少ないそうです。
ダンスは、体を動かすものですし、振付の順番を覚えますよね。踊っている最中も、身体の隅々まで意識するので、かなり脳が活性化します。
ボードゲームは、囲碁や将棋、麻雀やチェスなどが挙げられます。指先で駒を動かして、盤上の戦略を考えることで脳が活発に働きます。
■「体の末端の刺激」と「デュアルタスク」が脳を活性化させる
――指や手と頭を一緒に使う料理や楽器、体と頭を使うダンスなど、「何かを同時に行う」ということが脳には良さそうですね。
鳴海:そうです。2つ以上のことを同時にする「デュアルタスク」というのは脳にとてもいいんです。
漢方薬の考え方もそうなのですが、一つの原料よりも、相性のいい原料をいくつか合わせたほうが効き目は増します。
同じように、脳も一ヶ所だけが活性化するより、脳の複数の箇所が同時に活性化するほど相乗作用が起きるのだと思います。
楽器、ダンス、ボードゲームといった遊びや趣味は、シニアの方には馴染みのあることなので、始めやすいと思いますよ。
――認知症というと自覚がないうちに進行していることが多いと聞きますが、自分自身で「こうなってきたら、脳活をしたほうがいいのかな」という、サインや兆候のようなものはありますか?
鳴海:人や物の名前が出て来づらくなったなと思ったら、脳活を始められるといいと思います。
ただ、歳を重ねると、それまでの記憶もかなり蓄積されています。
その記憶の引出しから、思い出したいことがなかなか出てこない、ということがあります。たくさんの情報があるからパッと出てこないんですね。
だから、一概に「物や人の名前が出て来づらいから認知症だ」
といえるわけではありません。
若い頃に比べて、たくさんの情報を持っていますから、それを、いかに脳の中から引き出せるかだと思います。
また、脳活は、脳の働きを良くするということと、頭の中の知識や情報の整理をしてあげるということでもあるんです。
だから、最初に言ったように、なるべく早いころから脳活を始めるに越したことはありません。
若い頃から始めていると、脳の情報がつねに整理整頓されている状態になりますから、物や人の名前も出て来やすくなりますよ。
――やはり、日頃からから心がけていることが大事なんですね。
鳴海:そうですね。脳活を始めるタイミングというのは、他にもいくつかあります。
新しいことに挑戦をすることが億劫になってきたり、好奇心やワクワクすることが少なくなってきたり、そういう心の面での変化を感じたら、脳活をしたほうがいいサインだと思います。
また、日頃の心がけで言うと、元気なご高齢の方は、普段から心がけていることが自然と脳活になっていることが多いようです。
105歳で現役のお医者さんをしている日野原重明先生の健康法は「楽を嫌うこと」なんだそうです。
エレベーターと階段があったら階段を選ぶ。野菜の皮を剥くときも、ピーラーではなく包丁を使う。
そんな風に、何かをするときには、あえて面倒な方を選ぶ。
そうすると、自然に体を使うことになるので、体も脳も元気でいられると。
また、「双子で100歳」ということで、ご存命のときにメディアに出ていらした「きんさんぎんさん」も非常に良い事を仰っていました。
それは、健康の秘訣を聞かれたときに「食べ過ぎないこと」と答えていたんです。
空腹が満たされる程度で食べることを止める。実は、これって難しいんですよ。勢いがついちゃうと、ついつい食べてしまうものなので。
腹八分目に抑えるためのよい方法は、「ゆっくり、良く噛んで食べること」です。
脳には、満腹中枢というのがあるのですが、胃が満腹の状態になってから満腹中枢が「もう満腹だよ」っていう信号を出すので、「もう満腹」と思ったころには、本当は食べ過ぎなんです。
つまり、実際の胃腸の状態と、その状態を通知する信号に時差があるんですね。
だから、なるべくゆっくり良く噛んで食べることで、満腹中枢との時差を縮める。
そうすると、ゆっくり食べている内に、お腹一杯になってくるので、自然に食べ過ぎ防止になるんです。
よく噛んで食べると、顔全体の筋肉が動くことで、末端から脳を刺激することになりますから、脳活にもなり、内臓も健康でいられるので一石二鳥ですね。
■「脳によくない」生活、3つの習慣とは?
――では、「こういう生活は脳によくない」ということはありますか?
鳴海:大きく分けて3つあります。
1つは、「あまり体を動かさないこと」です。
これは、さっきの末端にも関係してくるのですが、皮膚というのは全体的に末端なんです。皮膚刺激というのは脳に直接関係していて、体を動かす機会が多い人のほうが、皮膚に与える刺激も大きいし、その分、脳にも刺激がいきますよね。
それに、体を動かしていると血液の流れが良くなるので、脳への血流も良くなります。だから、あまり体を動かさないと、脳も活性化しないのです。
2つ目は、「目を動かさないこと」です。
たとえば、一日中テレビを観ているだけ、という生活はあまりよくないと思います。
認知症の患者さんは、あまり目を動かさないといわれています。
テレビを黙って観ているときは、一点を見ているだけで、基本的には目が動いていないですよね。
興味深く見ているならまだいいですが、「することがないから漫然とテレビを見ている」という状態は、脳の刺激にもなりにくいんです。
――ちなみに、読書はどうなのでしょう?
鳴海:読書は、文字を目で追うので目が動きますよね。それに、文字からいろんなことを想像したり連想したりします。すると脳も活発に動きます。
テレビは、与えられる情報だけなので想像の余地があまりないですが、読書は読もうとしないと読めないですし、目も動いて、脳も刺激される。だから脳活的には良い習慣といえるでしょう。
そして3つ目は、「変化の少ない生活」です。
脳は、新しい体験を喜ぶようにできています。今まで経験したことがないとか、普段とは違うことをすると、脳がすごく活性化するんです。
その逆の、変化の少ないマンネリの生活は、脳によろしくないわけです。
なので、日がな一日、どこにも出かけずテレビだけ観て、何となくゴロゴロしているという生活は、認知症になりやすいかもしれませんね。
ちなみに、脳は変化を喜ぶのですが、これだけは変えないほうがいいよというのが一つあります。
それは「生活のリズム」です。
決まった時間に起きて、決まった時間に寝る。そういう規則正しい生活リズムの中で、運動や変化に富んだ生活をしていると、認知症にはかかりづらいようです。
――ずっとテレビを観ているだけの生活はあまりよくないということですが、テレビゲームというのはどうなのでしょう?
鳴海:私は悪くないと思っています。
普段、ゲームをあまりしない人がすると、頭の刺激になりますし、ゲームをよくする人でも、違うソフトで遊ぶことで、新しい体験にはなりますよね。画面のいろいろなところを見るので、目も動きますし。
ゲームなら、お孫さんと一緒に遊ぶというのは良いでしょうね。
実は「コミュニュケーションを取る」ということも、脳には非常にいいんです。なので一人でやるよりも誰かとゲームをやると、よりいいですね。
(後編に続く)
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