現在、日本には6カ月以上家族以外と交流せず、自宅にいる15歳から39歳の「ひきこもり」が約54万人いる。
こうした人が、社会参加できないまま年を取る「ひきこもりの長期化・高齢化」が社会問題になっているこの状況に一石を投じているのが、元ひきこもり相談員である伊藤秀成さんの『ひきこもり・ニートが幸せになるたった一つの方法』(雷鳥社刊)だ。
この本で、伊藤さんは「ひきこもりは無理に働くのではなく、ひきこもったまま株式投資で金を稼ぐ」という生き方を提示している。
この一風現実離れした提言の理由について、ご本人にお話をうかがった。
――自分の家族にひきこもりの人がいると、家族としては心配ですが、「どうはたらきかけていいかわからない」という人が大半だと思います。家族としてひきこもりの人に何ができるかという点についてご意見を伺いたいです。
伊藤:逆説的ですが、ひきこもりをどうこうしようという発想は改めるべきだということは強調したいです。小手先の取り組みで動くようならひきこもりの高齢化問題は起きていないですよ。それよりも、ひきこもりについて知る努力をしていただきたいです。
厚労省は、ひきこもりの3分の1は精神障がいを持っている方で、3分の1は知的障がいや発達障がいがあり、3分の1はパーソナリティ障がいやパーソナリティの偏りがあるとしています。これは言いかえれば、国はひきこもりに健常者がいるとは考えていないということです。
この言い方は過激だったかもしれませんが、少なくともひきこもりの大多数は、現代社会で生きていくうえでなんらかのハンデを背負っているということは認識しておくべきだと思います。
――確かに、そこは親や家族としては認めがたい部分かもしれません。
伊藤:付け加えるなら、ひきこもり・ニートが背負っているハンデは、両親から受け継いだものだということです。
「育て方が悪かったのではないか」と悩む親御さんは多いですが、そうではなくて親御さん自身のパーソナリティに何らかの問題や偏りがある。
ある程度の偏りはあってしかるべきですし、それは「個性」とも言えます。ただ、自分のパーソナリティ上の偏りにまったく無頓着なのは問題です。それがひきこもりを長期化させている一番の原因なんです。
まとめると、ご家族ができることとしては「ひきこもりの現実から目を背けない」「自分の問題から目を背けない」「真摯な気持ちで専門家や周囲の協力を仰ぐ」という三点だと思います。
――伊藤さんは、「ひきこもり・ニートが就労し、自立していくのは、実際は現実的とは言えない」という観点から、こうした方々に株式投資でお金を得ていく生き方を勧めています。この理由はどんな点にありますか?
伊藤:家から出なくていいですし、人と会う必要もありません。一度買えば放っておいても配当金や株主優待が得られますし、何より「投資家」という肩書が持てます。
ひきこもったままお金を得る方法はいろいろありますが、めんどくさいことが嫌いなひきこもりの性格を考えると、株式投資がもっとも適していると考えました。
それと、「社会の役に立ちたい」というひきこもり・ニートは実は少なくありません。そういう人たちが株でお金を得て、税金を払えばそれは立派な社会貢献です。
――しかし、暮らしていけるほどのお金を得るとなるとかなり難しいのではないですか?
伊藤:厳しいですね。株だけで経済的に自立するとなると、デイトレードをするか、そうでなければ億単位の種銭が必要です。
実際、自分の周りにも株だけで生活しているひきこもりの方はいません。ただ、株をやることで自信がついて、アルバイトを始めたという方がいる。
得られるお金はわずかでも、社会に関心が向いたり、物事を自分で決定する主体性が得られるのであれば、やる価値はあります。株とアルバイトを平行して生活していくというのが、目指すゴールだと思います。
――買ったまま放っておくにしても、素人ですから多少の勉強は必要ですよね。
伊藤:勉強は絶対にやってはいけません。ひきこもりの人の性格的に、勉強をすると、5年後も10年後も実際に株を買わずに勉強だけしているということになりやすい。
彼らの行動は、本質的に「オ〇ニー」になりがちなんです。勉強をすればひきこもっていることへの不安が紛れるから勉強はするけど、その勉強で何かを現実化させようとはしない。それでは意味がないでしょう。
だから勉強せずにいきなり株を買ってしまった方がいい。買うべき株は本で書いていますが、基本的には「ネット証券を使って自分が知っている日本株だけを買う」という一点です。
股間をクリックするのはやめて、マウスをクリックしましょう。どうしても勉強したいなら、まず株を買ってから「復習」としてやればいいわけですから。
――しかし、元手が必要でしょう。
伊藤:そこは親御さんに期待ですね。仮にも働かない人間を養うくらいの経済力はあるわけですから、それを少し分けてもらえば十分に株はできます。ただ、生活保護を受けている方は難しいかもしれません。
――本書は、ひきこもりやニートの方だけでなく、その家族の方々も無視することができない内容だと思いました。伊藤さんとしては、やはりひきこもり当事者に読んでほしいとお考えですか?
伊藤:もちろん、ひきこもり当事者にも読んでほしいのですが、ひきこもり関連本を読めるような鋼のメンタルを持っているひきこもりはレアですから、まずはご家族の方に読んでいただきたいです。
それと、この本で提示している「無理に働かず、ひきこもったまま株式投資でお金を得よう」という生き方は、ひきこもり支援者の方と、支援をデザインしている人に向けての一種の挑発です。
「ひきこもりの高齢化」が各メディアで問題視されていますが、「就労」も「障がい者認定」も拒否していれば、高齢化するのは当たり前ですよ。これらの選択肢を提示する行政の今のやり方で成果が出ていない以上、別の選択肢を考える時期に来ているのは確かだと思います。
(新刊JP編集部)
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