本は意外と衝動買いをしやすい商品ではないだろうか。巷で話題のベストセラーを買いに行ったのに、その場で「読んでみたい」と思った本に出会い、それを手にとってレジに並んでいたという経験がある人も少なくないはずだ。
本屋には、POPや商品が陳列された「ディスプレイ」など、一目見て「面白そう」「読んでみたい」と思わせる工夫がたくさん凝らされている。その中において、最近メディアから注目を集めているのが、滋賀県でチェーン展開をしている「本のがんこ堂」だ。
知らない人も多いかもしれないが、出版社と書店が手を組んで開催される「装飾コンテスト」というものがある。これは、出版社の夏のフェアや、特定の本などのフェアが全国書店で展開されるとき、ユニークなディスプレイを作り上げた書店を表彰するのだ。
2007年「角川文庫の夏フェア」ディスプレイ部門「グランプリ」受賞をはじめ、2011年文芸社「自分の説明書」装飾コンテスト「全国1位」、2013年講談社「進撃の巨人」装飾コンテストで「全国3位」など、数々の装飾コンテストで賞を取ってきた“スゴ腕書店員”が「本のがんこ堂」にいる。唐崎店店長の西原健太さんだ。
西原さんが目指しているのは、「エンターテインメント感」のあるお店だという。
「(講談社「進撃の巨人」装飾コンテストは)ツイッターを利用したコンテストだったため、全国の「進撃の巨人」ファンからの反響が大きかったんです。実際にお店に来てくれるお客さまではない人にも、広く見てもらえたことがおもしろかったですね」(p30より)
「本のがんこ堂」のユニークなPOPやディスプレイの秘密を明かした『売りたい気持ちと買いたい気持ちをつなぐ技術』(主婦の友社/刊)の中で、西原さんはそう語っている。実際に店舗に来るお客さんはもちろんのこと、SNSの向こう側にいる人たちや作家、出版社の人たちにも喜んでもらうようなディスプレイ作りをする。
お客さんだけでなく、その店舗の中をのぞける全ての人たちを飽きさせないようにする。そのための工夫を重ね続けているのだ。
■「本のがんこ堂」のPOPはすごくカラフルだ!
本書の中には、西原さんが仕掛けてきたPOPの数々が掲載されている。手書きのものがあれば、パソコンで作られたものもあるが、とにかく色彩が豊かなのが特徴的だ。背景が真っ黒のものから、白、オレンジ、クリーム、茶、紺、水色、黄色、ピンクと、色画用紙や色ペンなどを駆使したものまで、見ていてワクワクするものが多く、陳列された書籍を盛り上げる。
しかし、POPやディスプレイで売り上げは変わるのだろうか。西原さんは次のように答える。
「確かにPOPやディスプレイをつけても効果が出ない場合もありますが、本来売れる力のある商品をより売り伸ばすのにまちがいなく効果を発揮します」(p35より)
また、「本のがんこ堂」取締役社長の田中武氏は、本の買い方には「目的買い」と「衝動買い」があるとした上で、こう述べる。
「何かを買いに来ていただいたお客さまにいかにしてもう一冊手にとっていただくのに力を発揮するのがPOPディスプレイです。そもそも書店員の喜びや仕事の醍醐味とは、お客さまに「衝動買い」をしていただくことだと思うのです。それは、自分の店に立ち寄っていただいたお客さまに予想外の新しい感動をお届けすることができたことになるからです」(p136より)
「どんな本を読んでいいのか分からない」と悩んでいる人にとって頼りになるのが、書店員のイチオシ作品であることが一目で分かるPOPやディスプレイだ。本書には、商品の魅力を最大限に引き出すPOPやディスプレイの作り方が紹介されている。苦手な部分があるのなら、周囲の人たちを巻き込んでみんなでやってみることも大事だ。
この西原さんのPOPやディスプレイに対する熱意は、どの小売業者においても参考になるだろう。
(新刊JP編集部)
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