本を知る。本で知る。

「星野源といえば?」と聞かれたら「ナイススティック」と答える。

  「ナイススティック」とは、星野さんが以前パーソナリティを務めていたラジオ番組『ラジペディア』の名物コーナーで、男性の大事なところに絡めてポエム風フレーズを作り楽しむという趣向のもの。コーナー内では、リスナーから「やさしさに包まれたなら」「これがのちの自由の女神である」「グッドウィル・ハンティング 旅“だち”」といった投稿が寄せられる。

 『働く男』(文藝春秋/刊)にも、星野さんの「そういう一面」は充分散りばめられている。この本の内容は、映画評、コラム、短編小説、ピース・又吉直樹さんとの対談など多岐にわたるが、映画評の章では『YOYOCHU Sexと代々木忠の世界』(石岡正人/監督、角川書店/発売元)を取り上げ、「私はAVが好きである。と、素直に悪びれずかといって大げさでもなく普通に言いたい。昔からお世話になっているし、心の底から孤独な時間をどれだけ救ってもらったか」「世の男たちのうっぷんを晴らしているという部分では、日本を支えていると言っても過言ではない」等とAVへの思いのたけを綴っている。
 同様に、本書の「俺を支える55の○○」という、星野さんが影響を受けた作品や人物をひと言コメントともに55個紹介するコーナーでは、AV女優の成瀬心美をピックアップし、「すごい。自分の仕事に対する考え方がしっかりしていてカッコいいです。『見つめて中に出して』という作品が最高です」というコメントを寄せているのだ。
 だが、ここで言いたいのは「星野源は下ネタ好き」ということではない。もちろん、そういう見方も否定はしないが、それ以上に「星野源は正直なだけ」なのだと声を大にして言いたい。又吉さんとの対談を読めば、星野さんが意識的に「正直であろう」としていることが伝わってくる。

星野:「最近どんな業界でも、作品の中身よりも、戦略や売り方のほうが重要視されている気がするんです。もちろんそれも大事なんだけど、やっぱり、『これが好き!』『面白い!』と思っていることをいかに消さずに、お金が絡む厳しいプロフェッショナルの世界でリスナーや読者や視聴者にまで届けるか。それを追求したいと思うんですよね」

 人によっては、星野さんのこの言葉を「青臭い」の一言で切り捨てるだろう。だが、星野さん自身、そうした批判があることは重々承知の上で、「好き!」や「面白い!」を貫いているように見える。ではなぜ彼はこれほど迷いなく「自分」を貫けるのだろうか。
 星野さんの交友関係を見渡してみると、松尾スズキさん、細野晴臣さん、園子温さん、宮藤官九郎さんといった人物との親交の厚さに気づく。つまり、そうした強力な味方がいることで、彼は思う存分、自分を貫けているんじゃないかという気がしてくる。
 そして彼がこんなにも大物に可愛がられる理由は、その「正直さ」ゆえだとも思う。ここでは、本書の「星野源ってどんな人 関係者の証言」というコーナーに映画監督の園子温さんが寄せているコメントを紹介しよう。

園:「地獄も恐れない星野くんはある意味したたかで、倒れても蘇える自信がある、本物の『人生肯定派』。だから必要以上に働くし、倒れてもただじゃ起きない。常に殻を打ち破りながら働く」

 園さんのコメントに従うのなら「星野源は“正直だから”大物に可愛がられるのだ」という言い方は正確ではないだろう。彼の「正直さ」ではなく「なりふり構わなさ」こそが大物を惹きつける。こう表現したほうが正確なように思う。

 ところで、冒頭の「ナイススティック」、ラジオを聴きながら「なんか懐かしいくだらなさだなー」と思っていたのだが、「俺を支える55の○○」のなかに、「コサキン」こと小堺一機さんと関根勤さんがパーソナリティを務め、約30年にわたってリスナーに親しまれたラジオ番組「コサキンDEワァオ!」が挙げられているのを発見。「『くだらない』『バカじゃないの』は場合によって最高の褒め言葉になるんだとういことを、この番組から学びました」と書かれているのを読んで、ひとり納得した。
(新刊JP編集部 千葉流太)

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