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借金まみれの日本が財政破綻しない理由

 経済ニュースというと難解なイメージがあって、苦手意識を持っている人が多いかもしれません。
 経済ニュースが難しいと思われがちな理由は、それらが「経済の基礎的な知識」を受け取り手がわかっている前提で構成されているから。逆にいえば、それさえわかっていれば、経済ニュースはどんな人でも理解できます。

 では「経済の基礎的な知識」とはどのようなものなのか。今回は『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社/刊)の著者、塚崎公義さんにお話を聞き、それらの知識を交えて、「TPP」「オリンピック景気」といった時事トピックを解説していただきました。今回はその後編をお届けします。

――日本の「借金」についてはたびたび話題になりますが、本書では「日本の財政赤字については、それほど心配していない」と書かれています。ギリシャの経済破綻との比較で、なぜ日本は財政破綻しないと予測されるのかについての解説をお願いします。

塚崎:日本政府は、巨額の借金をしていますが、外国から借りているのではなく、日本国民から借りているのです。日本国民は、巨額の金融資産を持っていて、政府に貸した残りを外国に貸している(または投資している)のです。お父さんがお母さんから借金をしているが、お母さんは金持ちなので、お父さんにたくさん貸している他に、銀行にも貯金している、というイメージでしょう。それなら、家計としては安心ですね。夫婦喧嘩は絶えないかもしれませんが(笑)。
一方、ギリシャ政府は、外国から借金をしています。ギリシャ国民がそれほどお金を持っていないからです。そこがギリシャとの最大の違いです。
少し難しい話になりますが、ギリシャがユーロに加盟していた事がギリシャ政府の破綻を招いたという面もあります。ギリシャ政府が借金返済のために増税をしたため、ギリシャの景気が悪くなりました。そこでギリシャ政府は、金利を下げたり自国通貨が安くなるように為替を操作したりして景気を良くしようとしましたし、紙幣を印刷して政府の借金を返したりしようと考えましたが、いずれもユーロ圏の他の国が反対したので出来なかったのです。日本が同じ状況になれば、金利を下げたり通貨を安くしたり、様々なことが出来たでしょうから、その面でも日本とギリシャは違うのです。
私は、日本政府が破産するとは思っていないので、老後は公的年金で安心して暮らそうと考えていますが、日本政府が破産するとか年金がもらえなくなるとか、心配している人も多いようですね。そうした人に対しては、「老後の資金はドルで持ちましょう。日本政府が破産するような時は、誰も日本円(日本銀行券)など持ちたいと思わないので、円が紙屑になるかも知れませんから」とアドバイスをしています。不思議なことに、日本政府の破産を心配している人が、全財産を銀行に預金したりしている場合もありますが、それは止めましょう。

――そもそも「経済成長」とは一体なんでしょうか。先日、シアトルに住む老婆2人が「経済成長とは何か」「成長し続けることにどんな意味があるのか」「成長に限界はあるのか」という疑問を持ち、ウォール街の要人に話を聞きに行くというドキュメンタリー映画が日本で公開されました。その映画では、明確に「成長」の定義を教えてくれず、成長の先に何があるのか、具体的に示すものはありませんでした。経済成長の先には何が待っているのですか?

塚崎:経済成長というのは、日本国内で作られる物やサービスの量が増えていくことです。これには二つの意味があります。
一つは、多くの物やサービスが作られれば、日本人が豊かに暮らせるようになる、ということです。江戸時代や戦前と比べて、私たちは格段に便利で快適な生活をしています。これはまさに、経済が成長したおかげなのです。今後についても、経済が成長していけば、更に豊かに便利に暮らせるようになるはずです。
もちろん、経済が成長しても、精神的な豊かさが失われてしまったり、貧富の格差が拡がって従来よりも貧しい生活をする人がふえてしまったりしては、元も子もありませんが。
経済成長の今一つの意味は、失業が減るということです。企業が大量の物やサービスを作るということは、大勢の人を雇うという事なので、結果として失業者が減るのです。
経済が成長していくためには、需要(買い注文)と供給(売り注文。生産力が増えれば売り注文が増える)がバランスよく増えていく必要があります。供給が増えても需要が増えないと、失業者が増えてしまいますし、需要が増えても供給が増えないとインフレになってしまうからです。
バブル崩壊後の日本は、ずっと需要が足りない経済で、失業が問題でしたが、今後は少子高齢化に伴う労働力不足で供給が伸びず、インフレに悩むような国になってしまうかも知れません。そうならないように、安倍政権は「成長戦略」で日本経済の生産力を高めようとしているのです。

――経済ニュースに触れたとき、どのような点にまず注目すべきなのでしょうか。経済に関する情報のリテラシーを上げるために必要なことを教えて下さい。

塚崎:経済のニュースは、基本的なことが理解できている人を対象にしたものが多いので、初心者には難しすぎて、ついつい経済のニュースを敬遠してしまう人が多いようですが、少し馴れてきて、少しずつ理解できるようになれば、その後は弾みがついたように理解できる事が増えていきますから、まずは最初の段階で諦めてしまわないことでしょう。
経済のことが解っている人と解っていない人では、一生の間に大きな差がつくでしょうから、ここは是非、入り口の所で一歩を踏み出していただきたいと思います。
その際に必要なことは、二つあります。一つは基本的な入門書を読む事です。拙著でいえば、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』『増補改訂 よくわかる日本経済入門』がお勧めですが、書店へ行けば、拙著以外にも入門書は数多く並んでいますから、気に入ったものを選びましょう。
その際に注意して欲しいことは、経済の入門書と経済学の入門書は違うということです。経済学は、「理論的に考えると何が言えるのか」を探求する学問ですが、世の中は理論通りに動かないことも多いので、実際はどう動いているのかを知っておくことが重要なのです。経済学は、理論的に物を考える訓練としては非常に有益な道具なのですが、経済ニュースを理解するためには必ずしも必要ではありません。経済学の中にも必要な事柄もありますが、そうした事柄は経済の入門書にも書いてありますので、御心配なく。ちなみに筆者も経済学の入門書を出版済ですが、こちらはお勧めリストには加えてありません。
経済ニュースが理解できるようになるための第一歩として重要なことの第二は、何でもわからない事は調べる癖をつける、ということです。今はインターネットで何でも調べられますから、疑問に思ったことはすぐに調べましょう。そうしているうちに、知識が増えていくだけでなく、体系的に物事が考えられるようになってきます。点と点が線になり、それが面になっていくイメージです。なるべく早くそうなるように、頑張って下さい。

――最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。

塚崎:経済と聞くと、「難しくて解らない」と考えて敬遠する人が多いのですが、経済にも簡単な部分と難しい部分があります。簡単な部分がわかっただけでも、得なことは多いですし、そこから少しずつ難しいことを理解していく突破口となりますから、まずは最も簡単な所から経済というものに親しんで下さい。
専門家の中には、易しい事を難しげに話して自分を偉く見せている人も多いので、そうした人ではなく、難しい事を易しく説明してくれる人の話を聞きましょう。それ以前に、易しいことだけを選んで本にしてくれた人がいるならば、その本を読みましょう。
とにかく、本書が経済を敬遠している人々の入り口の第一歩となることを祈っています。
(新刊JP編集部)

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『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社/刊)

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