バランスシートや損益計算書といった決算書は、数字が苦手なビジネスパーソンにとっては「できれは触れずにおきたいもの」のはず。でも、これが読めることで得られるメリットは計りしれません。
自分の会社の行く末や取引先の経営状態、そして転職先選びや投資先選びなど、ビジネスのあらゆる分野で正確な判断をするために、決算書の数字は必要な情報を与えてくれます。これらを読み解くことができれば、社会人としての人生は確かにいい方向に変わるはずです。
今回は『日本一やさしい「決算書」の読み方』(プレジデント社/刊)の著者で、柴山政行さんにお話をうかがい、会計の素人が決算書から会社の実態を読み取る方法を教えていただきました。その後編をお送りします。
――決算書の基本的な読み方は1章から3章に集約されています。特に1章の「7つの質問でバランスシート早わかり」と「分析で役立つ6つの公式」はすぐに使える知識として重宝します。
柴山:そうですね、「7つの質問」が決算書の見方のベースになります。先ほどお話した「時計回り」の見方でバランスシートの各項目が何を示すのかを確認していくのですが、これを覚えてくれれば損益計算書やキャッシュフロー計算書も含めて、決算書の見方はすべてわかるはずです。
「分析で役立つ6つの公式」については、私はセミナーでも会計について教えているのですが、ここが一番生徒さんに好評ですね。すべてビジネスの現場に直結することなので。
4章から6章は応用編・実践編なのですが、前半に書かれている基礎がわかっていれば理解できるはずです。
――会社での実務もさることながら、決算書を読めると就職先や転職先選びにも役立ちますよね。この目的で決算書を読む時、特に気をつけるべきポイントはありますか?
柴山:基本的には、やはり「時計回り」で見て行けば大丈夫です。バランスシートの右上と右下を見て、自己資金と比べてあまりにも借り入れが多すぎないかチェックするのは、経営の安全性を知る基本的な方法です。
ただ、会社を判断するにはそれだけでは不十分で、「安全性」のほかに「収益性」と「成長性」も見るべきです。特に「成長性」は大事ですよね。これからの伸びが見込めない会社に行ってもしょうがないでしょうし。
これは「時間軸」と「空間軸」という二つの視点で分析します。「時間軸」は過去からの推移で業績が伸びているかという視点です。前年や前期と比べてどうかというのを見ていく。
「空間軸」は同じ時間の中での他社との比較ですね。これを地道にコツコツとやっていくことが大事で、続けているうちに、経営状態が安定していて今後も継続的に成長していく会社かどうかを自分で判断できるようになってくるはずです。
「時間軸」と「空間軸」で会社の成長性を見るというのは投資についてもいえますね。
――その他に、決算書を読めることで得られるメリットがありましたら教えていただければと思います。
柴山:自分が勤めている会社や取引先について何か噂が立った時は、決算書を見ればその噂が本当かどうかわかります。会社に何か変化がある時は、かならず損益計算書やバランスシートに影響が出ますから。そうして、「うちの会社は今後まずいかもしれない」となったとしても、早いうちに把握できていれば手が打てるでしょう。取引先についても同様で、変な噂が立っていたら決算書を調べて、経営状態が悪化しているようなら対策を立てておく。そういう意味で、決算書を読めることは自分の身を守る武器になるはずです。
――ただ、決算書を公開しているのは基本的には上場企業のみです。そうでない企業の場合は決算書を手に入れること自体が難しいのではないですか?
柴山:すべての会社ではないにしても、非上場の企業を扱った『会社四季報・未上場会社版』などがあって、そちらである程度カバーできることもありますし、「帝国データバンク」などの情報提供機関からデータを買うという手もあります。
それと、決算を公開していない会社でも、ホームページには「資本金」や「売上」「従業員数」などの情報が出ていますし、また、会社に行けば本社や倉庫などの状況が見られます。この本で会計知識を得れば、そこからでもある程度想像できるようになると思います。
――最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いいたします。
柴山:「これから会計の勉強を始める方」、「簿記を勉強中という方」、「すでに簿記の資格を持っている方」、「株式投資を始めたい方」に役立つようにと思ってこの本を書きました。
中でも、「これから会計の勉強を始める方」ですね。仕訳や難しい専門用語は抜きにして、この本の最初にあるクイズに挑戦してみてください。決算書を見てどの会社のものかを当てるクイズなのですが、最初はわからないかもしれません。でも、本に目を通してもう一度チャレンジしてみるとどの決算書がどの会社か、各項目の数字を見て判断できるようになります。そうやって成果を実感することで、「会計はおもしろくて、実は難しい知識などいらない」ということを知っていただきたいですね。
(新刊JP編集部)
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