新人作家が小学館文庫小説賞と松本清張賞のW受賞の快挙を成し遂げた。
額賀澪氏は、『ヒトリコ』で第16回小学館文庫小説賞を受賞した2週間後に、第22回松本清張賞を『ウインドノーツ』で受賞。最終候補作に残っているという連絡は同じ日に届いたという。
華々しいデビューに、大いに期待が集まる額賀氏。どんな作品を描く作家なのだろうか?
ここでは小学館文庫小説賞を受賞した『ヒトリコ』(小学館/刊)を紹介しよう。
小学5年生のとき、深作日都子は教師から金魚を殺したと濡れ衣を着せられてしまう。それは、転校してしまった海老原冬希が学校で飼っていた金魚だった。このことがきっかけとなり、日都子はいじめの対象となってしまう。
昨日まで「友だち」と思っていた幼なじみの女子からも、手のひらを返したような態度をとられ、日都子は、何もかも信じられなくなり、いろいろなことが億劫となり、心を閉ざした。「ヒトリコ」として生きていくことを決心する。
日都子は中学生になり、「関わりたくない人と、関わりたくないから」と、部活に入らないかわりに、近所に住むキュー婆ちゃんの家でピアノを習い始めることになる。ヒトリコの心の支えはピアノと偏屈なキュー婆ちゃんだけだった。
中学を卒業し、地元の高校に入学すると、金魚の飼い主だった冬希と再会する。冬希は、モンスターペアレントの母親に振り回され、引っ越し先の東京でも母親のために周りから疎まれてしまう。冬希は、日都子が「ヒトリコ」になった原因が自分と知り、申し訳なく思う。そして、いらないと思ったものを自分で切り捨て、「ヒトリコ」として自分を貫いて生きている日都子に冬希は引きつけられていく。
冬希は、自分を振り回していた母をさっさと切り捨てていれば、もっと違う人生があったかもしれない、じわじわと周りから友人がいなくなることに怯える必要もなかったのに……と心に癒えることのない傷を抱えていた。そして、自らが委員をつとめる文化祭で、合唱伴奏を日都子に依頼したことから、冬希と日都子の距離は少しずつ縮まっていき、日都子はそんな冬希に次第に心を開いていく…。
思春期のアンバランスな感情を、さらにかき乱す家族の問題。さらに、いじめや閉塞感漂う逃げ場のない学校という場所の中で、2人は成長していく。そんな彼女たちの姿に共感し、行間のどこかに、かつての自分自身をみつける読者も少なくないだろう。
小学館文庫小説賞受賞時の選評では「筆力があり、女性の支持を得られる感性を持っているだけでなく、この作品では男性からの高い評価も得ていた」と、男女問わずに評価を受けたことが明かされている。
誰もの心に突き刺さるこの物語にぜひとも触れてほしい。
なお、もう一方の受賞作は『屋上のウインドノーツ』(文藝春秋/刊)として、『ヒトリコ』(小学館/刊)と同時発売された。両社の大きな期待が感じ取れる。
(新刊JP編集部)
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