「反知性主義」という言葉をご存じだろうか?
『知性とは何か』(祥伝社/刊)の著者、佐藤優は、反知性主義を「実証性や客観性を軽視もしくは無視して、自分が欲するように世界を理解する態度」だと定義する。いま、日本は急速に反知性主義化しており、本書はその問題点を問うものである。
2013年7月、麻生太郎副総理は憲法改正論議に際して、いわゆる「ナチスの手口に学んだらどうかね」発言をした。少し考えれば、この問題発言が世界に与えるショックの大きさに気付くはずだが、それが見えないのが、反知性主義者だ。
このことに象徴されるように、現在の安倍晋三政権における日本の政治や外交は、まさに反知性主義的なものである。
また、沖縄における辺野古(へのこ)への基地移設問題でも同様である。2014年11月の沖縄県知事選挙で、移設反対を主張する翁長雄志(おなが・たけし)氏が選ばれた。沖縄の民意は、永田町に屈せず自己決定権を取り戻そうとしている。それは、イギリスにおけるスコットランド独立運動と同じく、重要な歴史的意味を持つ。しかし、現政権はその重大さに目を向けようとしない。
では、いままさに国会で審議中の安保法制については、どうだろうか? 本当に実証的、客観的に、日本の国益を考えた議論がなされていると言えるだろうか?
こうした状況が続けば、日本は危うい。
「知性を軽視する現下日本の風潮は、社会を弱くする。社会が弱くなれば、国家も弱体化する。国家と社会が弱くなれば、そこで生活する一人一人の生活が苦しくなる」と著者は言う。
では、私たちは、どうすればよいのか?
それは、反知性主義に対抗しうる強靱な「知性」を身につけることだ。知性とは、偏差値で測れるような学力ではない。「正しい事柄に対しては『然(しか)り』、間違えた事柄に対しては『否(いな)』という判断をきちんとする」ことができるようになることだ。逆に言えば、反知性主義者は、けっして「頭が悪い」わけではないことに注意が必要だ。
そうした本物の知性を身につけるために、著者が強調する3つのポイントがある。
(1)自らが置かれた社会的状況を、できる限り客観的にとらえ、それを言語化する
(2)他人の気持ちになって考える訓練をする
(3)「話し言葉」的な思考ではなく、「書き言葉」的思考を身につける
これを見ても分かるように、重要なのは「言葉の力」だ。インターネットにおけるソーシャルメディアの発達は、利便性とは裏腹に、単語レベルでの安易なコミュニケーションの氾濫(はんらん)を生んでいる。それによる国語力の低下を、著者は危惧している。
知性を身につけるための最も良い方法は、やはり読書である。
本書では、知の巨人・佐藤優による反知性主義を克服するための「実践的読書術」についても解説している。難しい本を読むためには、どうすればよいのか。豊富な引用を著者の解説にしたがって読み進めることで、そのコツをつかむことができるだろう。自分が理解できることと、そうでないことをちゃんと認識することも、反知性主義者に足もとをすくわれないようにするための、重要な技法なのだ。10冊を超える本のポイントが詳細に紹介されており、すぐれたブックガイドにもなっている。
反知性主義者は、現実を直視しようとしない。したがって、彼らを説得することは難しい。私たちにできることは、知性を身につけ、協力して反知性主義者を封じ込めることなのである。
そのために、私たち一人一人が、いますべきことを本書は教えてくれる。世界も日本も危機にある現代において、必読の一冊だ。
(新刊JP編集部)
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