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ICTはただ導入すればいいものではない! ITコンサルタントの提言

 今や、ビジネスの現場でなくてはならない「IT」。かつて、パソコンのソフトウェアやメールが登場したことにより、仕事のやり方は劇的に変化した。今、スマホやタブレット、クラウド、SNSなどの登場により、激変の第2幕が始まっている。
 しかし、多くの中小企業が、次々と登場するIT技術に戸惑っていたり、乗り遅れると不安に感じていたりする。また、最新版が頻繁に更新されていくIT技術に、うんざりしている中小企業も多いだろう。

 そんな悩める中小企業経営者向けに書かれたIT活用の指南書が『業績をあげるとっておきのICT活用術』(セルバ出版/刊)だ。本書はベテランITコンサルタントであり、現役の経営者でもある五島一輝さんが執筆した一冊で、どのような問題が起こり得るか、どのように活用していけばいいのかが説明されている。
 今回、新刊JPはそんな五島さんにインタビューを行った。その後編をお伝えする。
(新刊JP編集部)

■中小企業の経営者が知っておくべき、ICTとの付き合い方

――ICTに疎いからといって、パソコンなど機器周りや、クラウドなどのサービス選定のことを社員に任せきりになると失敗しやすいというお話は、ICT導入を外注する際も同様のことが起こりそうですね。

五島:そのとおり。プロの業者に外注するケースでも、残念ながらよく起こります。社員任せでも外注でも、失敗するときは共通して見られる傾向があって、それは導入することがゴールになってしまっているという点ですね。導入は本来スタートなのです。
ですが、真剣に取り組めば、導入には大きなエネルギーが必要になります。そうなると、本書で言っている「自発的変身」という、ICT環境の変化に自在に適応するという発想までは気が回らなくなる。最も、そうでなくてもこの発想はおきざりにされやすい。どちらにせよ、この発想がなかったことを悔やむときがいずれやって来ます。

――ICTの世界は非常に変化が速く、すぐにバージョンアップしますし、新しいソフトウェアも出てきます。中小企業からしてみれば追いつくのも大変というような感じだと思うのですね。そんなとき、企業側はどこまで対応していけばいいのでしょうか。

五島:ICTの場合、単独で利益を上げる効果を期待するのはナンセンスです。ICTは常に人とセットです。使う人次第で効果は変わるし、使っていくことで気付く知見を積み上げられれば、効果はどんどん高まっていきます。
そういう意味では、従来の設備投資と同じ発想から離れる必要があります。導入した後でICTの効果をどう高めていくかということに意識を傾けるのが妥当です。
バージョンアップについては、必ずしないといけないわけではありません。自分たちがどういうことをしたいかというのが起点になって導入を進め、使っていく中で気付いた改善点について検討する。そして、もし改善点を取りこむならば、バージョンアップをしましょう。こういった発想が大事で、その発想に対応できるICTであることも、同じように大事なのです。

――「従来型の設備投資の考え方」とは?

五島:例えば、3000万円の機械であれば1分間に30個造れますが、6000万円の機械であれば、1分間に100個造れます。受注見込みなどを踏まえ、どちらの機械を導入しますか?という類の考え方です。この考え方は、ICT導入にはそのままでは当てはまりません。
使いこなす人の習熟度や工夫、顧客や取引先への影響などが複雑に絡み合い、通常、効果測定は極めて困難です。その割には当てにならず、徒労に終わります。もっと他のことにエネルギー費やす方が賢明です。
パッケージソフトのように、改善ができない、あるいは改善できたとしても現実的ではないようなICTを利用する場合、使い捨てなんだと割り切った方がいいかもしれません。
5年使うつもりで購入しても、3年でバージョンアップしないと使い続けられなくなったというときは、そこで使い捨てる可能性もあり得ると、始めから想定しおくのです。ICTの技術革新や環境変化は将来予測が難しいので、導入時に完全に計算することはできません。

――なるほど。

五島:だから、はじめの段階でこれは使い捨てるものなのか、「継続的改善」をしながら使い続けていくものなのか、しっかりと決めた上で導入すべきだというのが、私の持論です。そうしないと、先のようなケースで、思いもよらぬ大きな出費を強いられたり、判断を誤ったりしてしまいます。

――ところで、話は変わりますが、ICTの導入において、専門家であるエンジニアの役割はとても重要だと思います。そこでお聞きしたいのですが、エンジニアに求められる資質や経験とは、どんなものでしょう?

五島:システム構築の場合のことが面白と思うのでお話しします。意外と知られていないことですが、システムを構築する際、始めの方の段階の仕事に求められる資質と、終わりの方の段階で求められる資質はかなり違います。正反対と言っていいかもしれません。
システム系の仕事は理系の人が向いていると思われがちですが、システム構築を企画している段階では、芸術家タイプの素養が必要だと私は感じています。つまり、頭が柔らかい人ですね。
理系出身者の場合、なんでもきっちりとやりたがる人が多い。ものすごく細かいリスクの洗い出しとか、きっちりした正確な処理手順とか。提示された要望や条件を分析して問題点を分析するようなことは得意ですが、漠然とした内容だと戸惑ってしまい、なかなか前に進まない。
漠然とした内容から何かを掴むためには想像力が必要です。もやっとした話にもヒントは隠されています。想像力を発揮してヒヤリングにより引き出して形にする。当社のキーコンセプトである「想像して創造する」、この意味がまさにこういったことで、企画段階で非常に重要な素養です。
リスクを考えたり、正確な処理手順を決めたりすることは確かに大切ですが、そればかり考えていると、使いづらくなってしまうことが多い。一言で言うと「固い」ものになってしまうのです。例えば、1→2→3という手順でしかできなくなってしまう。作業によっては1→3→2という流れになることもありますよね。
大企業ならば、大抵の場合、業務プロセスが固まっているのですが、中小企業の場合は顧客の都合や業務の効率化などの理由から、業務プロセスが変わることも結構多い。だからICTを「柔らかい」ものにすることが必要で、そのためエンジニアにも柔軟な発想が必要になります。

――それは非常に良く分かります。

五島:ただ、工程を踏んでいき、最後の段階になると、ガラッと変わって理系の緻密さが求められます。つまり正確さですね。システムは基本的に一文字でも間違うと動かないので、正確性が要求されるのです。

――必要な人材が工程の中で変わってくる。

五島:そうなんです。システム構築の世界では上流と下流という言い方をするのですが、上流はえらくて、下流は下請け的な扱いをされる傾向があるように感じます。ただ、それは適性が違うというだけですし、下流の工程が向いている人間が無理して上流に行こうとすると不幸なことになってしまうこともある。
上流・下流に優劣はなく、全てが大事な仕事です。ただ、そうは見ない風潮があるように感じるのは残念ですね。

――この傾向は今後も続くのですか?

五島:そうではありません。システムの構築手法は変わっていきます。既に変わり始めています。詳しくは割愛しますが、もっと、混沌とした構築手法になっていきます。
といっても悪い方向に変化するのではなく、もっと柔軟に、ゆえに混沌としたものに変わっていくのです。システムを必要とする人の要望をより柔軟に、そしてより早く実現できるようになっていきます。「想像して創造する」ことが益々重要になってくるはずです。

――今後、ICTの活用術を記した本書の価値はさらに上がっていくと思いますが、その点はいかがでしょうか。

五島:ICT活用が企業の業績に与える影響は、今後大きくなる一方だと思っています。だから中小企業の経営者は、「ITが苦手」という口上で逃げ続けるわけにはいかないということに気づいてほしいのです。ICTはすでに経営の一部です。うまく活用して業績に貢献させる最終責任は経営者にあるのです。
もちろん、技術そのものを知るべきというわけではありません。でも、経営者もICTには意識を持って関わり合い、自分の想いを具体的に伝える努力はするべきです。始めはICTとは関連のうすい、一見的外れな想いであったとしても、伝える努力を続けていけば勘所が分かるようになります。すると、ICTの効果も高まっていくのです。

――冒頭の「丸投げをしない」というところに辿りつくわけですね。

五島:そうです。本書を読んで、理解できないところはあると思いますが、どこか引っかかるところがあれば、そこをきっかけに自分がICTに関与していくということを今まで以上に考えてほしいです。もし分からないところがあった場合は、私に質問してくださればお答えします。

――では最後に、読者の皆様にメッセージをお願いします。

五島:ICTはどうしても同質化する方向へバイアスがかかりやすい傾向があります。この点はまず覚えておいてほしいです。
その上で、自分たちの長所や特徴を活かしながらICTを使うという形で取り組んでいってもらいたいです。それが業績の向上へつながる近道になると思います。ぜひ、自分たちの個性や長所、差別化ポイント、お客様から評価されている部分を磨きながらICTを導入してもらえれば嬉しいですね。

(了)

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『業績をあげるとっておきのICT活用術』著者の五島一輝さん

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