私たちは様々な場面でお金を使う。モノを買うときだけではなく、家賃や光熱費、インターネットの利用料金を支払うときもお金を使うし、将来を考えて勉強するためにスクールに通うときにもお金を払う。
この「何にお金を使うか」の意思決定の姿勢は、実は多額でも少額でもほとんど同じと考えてよい。
例えば、あなたがアパレルショップで3000円のセーターをお買い得だと思って購入するときと、投資家がある会社の株を購入し、「いい投資ができた」と満足したとき、意思決定の姿勢という点ではほぼ同じだ。あなたも投資家も、「価値」と「価格」を比べ、自分が考える価値のほうが価格より高い、すなわち「お買い得」と考えて購入したのである。
「価値」が「価格」に見合うか否か。
私たちはこの判断を無意識にし続けているのだ。「価値」が「価格」より大きければ購入するし、そうでなければ購入を見送る。大事なのは、「価値」と「価格」をどう見極めるかということだ。
■意思決定の中に含まれる「感情」
私たちは物を買うとき、完全に合理的な意思決定をすることは難しい。
例えば、近所のコンビニエンスストアが200円で売っているカップラーメンは、少し先のディスカウントストアだと170円になる。
休みの日ならば、カップラーメンを買いにディスカウントストアまで行こうと思う人もいるだろう。しかし、夕食を食べる間もなく働き、夜遅く帰宅してから何か食べようと思ったとき、コンビニでカップラーメンを買うという選択をすることを厭わない人も多いはずだ。つまり、「感情的な満足度」に左右されてしまうのだ。
「趣味にはお金を惜しまない」、これも感情的な満足度に左右されていることになる。世界一高い切手は1856年に英領ギアナで印刷された1セントの切手で、競売にかけられればおよそ1000万~2000万ドルで落札されるという。とんでもない額だが、コレクターたちはそれだけの価値を見出しているのだ。
感情的な満足度を「効用」といい、ある商品から得られるだろう「効用」にどれほどの金銭的価値があるかを我々は常に見積もっているのである。これを「消費」と呼ぶ。
■「投資」と「投機」の違いとは?
お金の使い方として「消費」のほかに、「投資」と「投機」がある。
「投資」とは、将来的に資本を増加させるために現在の資本を投じる活動だ。将来を考えて資格をとるために教材を購入して勉強するというのは投資活動になる。今すぐではなく、「将来生まれるお金」を考えてお金を使うのだ。ファイナンスの世界では、将来生まれるお金を「キャッシュフロー」と呼ぶ。
一方の「投機」は、「損することも覚悟して、支払ったお金より多くの見返りを得ることに挑戦すること」を指す。
典型的なものだと、ギャンブルや宝くじが当てはまる。宝くじを本気で当たると信じ込んで買うという人はいないだろうが、それでも「大きな額になって返ってくるかもしれない」という淡い期待を抱いてはいるはずだ。
そして、この「投資」と「投機」はいずれも不確実性(リスク)を伴う点が共通している。
■3つの財布を使ってお金を管理する
『お金はサルを進化させたか』(日経BP社/刊)の著者である野口真人さんは、私たちは「消費」「投資」「投機」という3つの種類の財布を持っていて、何かにお金を払うときに意識せずお金を払っているが、賢いお金の使い方をするにはこの3つの財布を意識することが大事だと述べる。
確かに一時的な感情に揺さぶられて満足感を得ようとして「消費」をしてしまい、後悔したという経験をしたことがある人は多いだろう。また、将来のために勉強をはじめ、実際にその夢をかなえたという人もいるはずだ。それは「投資」が成功したことになる。
一体自分は何にお金を使っているのかが見えなくなること。それが日常生活の中の不合理な行動を生んでしまう一因になる。
『お金はサルを進化させたか』は行動経済学やファイナンス理論、確率論などを使いながら、賢いお金の使い方を解説する一冊だ。新刊JPでは、今回を含めて4回に分けて本書の内容を追いかけていく。次回をお楽しみに。
(新刊JP編集部)
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