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“恐怖政治”が面白いコンテンツを生むこともある――鈴木おさむさんインタビュー(2)

 人気クイズ番組「クイズ!ミステリースパイ」のプロデューサーとして多忙を極める神田達也が、ある日帰宅すると、自宅のリビングで高校生の息子である和也が磔にされ、玉虫色のスカーフを巻いた男が立っていた。
 玉虫色のスカーフの男は6枚の名刺を取り出し、和也を人質にとって神田にクイズを出題する。白いパジャマを着た男女5人が登場し、名刺の持ち主を5人の中から探し出して返していけ、というのだ。その名も「The Name」。

 数々の人気番組を手掛ける放送作家・鈴木おさむさんが執筆した『名刺ゲーム』(扶桑社/刊)は、テレビ業界のリアルな闇と欲望を描いた小説だ。しかし、ここで書かれている“問題”は、テレビ業界だけに限ったことではなく、仕事をしているあまねくビジネスマンに突き刺さるものになっている。
 これは鈴木おさむさんの“暴露”なのか? それとも、“告白”なのか? 新刊JPは鈴木おさむさんに真意を聞いてきた。その後編をお伝えする。
(新刊JP編集部/金井元貴)

■テレビ業界の視聴率は「絶対」。でも…

――テレビ業界のことについてお聞きしたいのですが、やはり視聴率は絶対的なのですか?

鈴木:よく聞かれる質問なのですが、視聴率が悪いと番組が終わってしまいますから。それが全てですね。絶対かそうではないかと言われると、絶対だと思います。どれだけ面白いと言われても、バラエティで視聴率4%だったら、番組は終わりますよね。

――視聴率が高い番組に共通する傾向や特徴をあげるとするとなんだと思いますか?

鈴木:もちろん視聴者のターゲットですとか、そういったものもあるんですが、何よりも作り手の熱意が重要だと思います。ある一人のキャプテンシーを持った人が番組を根性で引っ張るというのはよくある話で、この『名刺ゲーム』にも書きましたけれど、恐怖政治だから番組が面白くなるということもあるんです。その人がいなくなってしまった途端に番組がつまらなくなっていく、悪だと思っていた人が実は番組の面白さを作っていたということは普通にあります。

仕事がすごく出来るけれど超ムカつく人の話はすごく面白いから、盛り上がりますね。もちろん被害者側からすればとんでもないことばかりです。でも、当事者じゃない人は「あの人は番組をヒットさせているじゃん」と思って聞いたりもします。

――人が寄ってくるといえば、神田達也の女性関係も『名刺ゲーム』の読みどころの一つでした。女性芸能人ではなく、そのマネージャーの女性との関係が描かれていましたが、こういうことがあるのかと思わされました。

鈴木:神田達也という人物は、遊び人ではないし、実は勇気がないんです。小市民なんですよね。僕はこのキャラクターのそういったところが好きです。

――ただ、実際には急に放蕩になってしまう人もいるのではないでしょうか。立場が人を変えてしまうというか。

鈴木:それはあると思いますね。

――ヒット番組を生んで、急に他者からの視線が変わって、たくさんの人が寄ってきて…となると、正気でいられないような気がします。

鈴木:テレビ局はそういったものの縮図のような気がしますね。毎週視聴率が出て、それに一喜一憂して。もちろん、一般的なビジネスの世界もそうですが、さっきの話と矛盾してしまうかもしれないけれど、視聴率というのは絶対であることは間違いありません。しかし、その視聴率の実態は分からないものです。物が売れた数ならば諦めがつくかもしれないけど、視聴率はそもそもどうやって測っているのか、あの数字が本当に正しいのかというのがあやふやなんです。その実態が分からないものに、自分の評価を委ねないといけないという不思議な世界がテレビ業界です。

以前、視聴率を買って大問題になった人がいましたが(2003年の日本テレビ視聴率買収事件)、テレビ業界の人間たちが口を揃えて言うのは、「それはやっちゃダメだよ。でも、その人の気持ちは分かる」ということなんです。

――なりふり構わなくなっていく、と。でも、神田達也だけでなく、玉虫色のスカーフの男も5人の白いパジャマを着た男女も、そして息子の和也も、全員生々しいですよね。

鈴木:そうですよね。どこかに薄くモデルがいて、それを重ねたり、僕がこれまでこの業界で見聞きしてきたことをつないでいって作ったのが、この登場人物たちです。

よく考えれば、僕は会っている人間の数が半端じゃないんですよ。毎回会議に出席して、その都度10人、20人は出席者が入れ替わって、それが1時間ごとにあったりして…1日300人くらいに会っているんじゃないかな。そして、その300人にはそれぞれの人生があって、僕にとっては300分の1だけれど、一人ひとりに物語があって、そこで見せている顔とは別の顔があるかもしれない。『名刺ゲーム』の登場人物の一人のように、他人にはいえない性癖を持っていたり、誰にも言えないことを抱えたりしながら生きている人もいる。そういう人たちのことを書きたいと思ったんですね。

――『名刺ゲーム』の中で玉虫色のスカーフの男が、「仕事を勝ち取るには実力だけじゃダメ。ならば何が必要なんでしょう? 「賢さ」ですよ。それを「ズルさ」と呼ぶ人もいるかもしれない。ズルいことをして勝った人を負けた人が責めるのは単なる嫉妬でしかないですよ」(P71より)と名刺の持ち主の一人に言いますよね。これは鈴木さんのお考えなのですか?

鈴木:そうですね。この本は、実は僕の中ではビジネス書なんです。裏ビジネス書というか。玉虫色のスカーフの男は、名刺の持ち主たちにも仕事やビジネスの本質を投げかけます。それは僕が必要だと思っていることを代弁しているんですね。

例えば仕事のために女性が男性と寝るとする。それを入り口として、もし、その女性の才能が開花して、注目を浴びて、たくさんの人に勇気や希望を与えるような存在になったら、果たしてそれはズルいといえるのかということです。もちろん、寝ただけでチャンスを自分のものにできなければ意味はありません。

でも、僕はそれを実行した人のことを実行しなかった人が責めるのは、単純にひがみなんじゃないかと思うんです。

――それを結果に結びつけられるのであれば…。

鈴木:それをズルさと呼ぶのは、一概には違うんじゃないかと思います。もう一つ、僕が好きな問いかけがあって、例えば国民的な名曲が薬物を使った状態で作られていたら、それはどう思うかというものです。薬物は絶対にいけないことというのを前提として、その曲で本当に救われたという人もいるはずなんです。どう思いますか?

――僕自身は、やはり曲は曲として切り離して考えるべきだと思います。薬物はもちろんいけないことですが、薬物をやっている人が作った音楽が良くないというのは違うと思いますし、曲の素晴らしさそのものは否定できないのではないか、と考えますね。

鈴木:そう考えるのも正解。もちろん別の正解もあります。つまり、この問題は議論のしようがないんです。そうした議論にしようがないもどかしいことを、この小説の至るところに入れているんですね。だから、『名刺ゲーム』を読んだら、登場人物たちのことを話してくれたらいいな、と。この本の中でこの人物はこんなことを言っていたけれど、どう思う? みたいな感じで。

――では、最後に『名刺ゲーム』の読みどころを教えて下さい。

鈴木:もともとは「名刺を返す」という行為を使ったゲームをバラエティ番組でできないかというところからアイデアを膨らませて、その設定を舞台や小説で使ったのがこの『名刺ゲーム』です。そういった背景もあり、クイズ番組をどのように作っていくかというところは丁寧に書いたつもりなので、その部分はぜひ楽しんでほしいですね。

また、僕にとって本書はサラリーマンの方々をはじめ、日々働いていて、いろいろな想いを持っている人のための“裏ビジネス書”ともいえるものです。ぜひ読んでもらって、自分が抱いている想いについて、向き合ってみてほしいですね。テレビ番組を見るつもりで、ページをめくってもらえると嬉しいです。

――また、物語の結末も非常に驚きました。

鈴木:最初の展開からは想像できないですよね。結果的にそうなってしまいました(笑)

――ありがとうございました!

(了)

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『名刺ゲーム』を上梓した鈴木おさむさん

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