資金ゼロ、人脈もゼロ、英語も話せない。そんな一人の大学生が世界を変えるために立ち上がった。これ以上、地雷で死んでしまう人を増やさないために、過去の傷に悩む“元子ども兵”を救うために…。
鬼丸昌也さんは今から13年前、大学在学中にNPO法人テラ・ルネッサンスを立ち上げ、地雷除去や元子ども兵社会復帰の支援と、年間100回を超える講演などを通して啓発活動などを行ってきた。
『僕が学んだゼロから始める世界の変え方』(扶桑社/刊)は、鬼丸さんの半生とともに人に自分の気持ちを伝える上で大切なことがつづられた、ノンフィクション&ビジネス書。
しかし、どうして鬼丸さんは、その活動に本気になれるのだろうか。今回は鬼丸さんにお話をうかがってきた。インタビュー前編では「想いを伝えること」について聞いた。
(新刊JP編集部)
■「相手へのリスペクトがなければ、話は伝わらない」
――まず、鬼丸さんが設立されたテラ・ルネッサンスはどのような活動をされているのですか?
鬼丸:現在は「地雷・クラスター爆弾」「小型武器」「元子ども兵」そして「啓発活動(平和教育)」という4つの課題に取り組んでいます。
まずは地雷とクラスター爆弾の不発弾の取り除くための活動の支援ですが、これはカンボジアとラオスで行っていまして、日本で資金を集め、提携しているNGOに地雷や不発弾所気を委託したり、被害を受けた人たちの支援をさせていただいています。
二つ目の小型武器は、小さくて軽い、誰でも扱えるような小型武器があるのですが、これが非合法に取引され、流通しています。それが三つ目の課題である子ども兵が増える要因の一つにもなっているのです。最近では、世界で初めてとも言える、武器の取引にある一定のルールを置いた「武器貿易条約」が、去年、国際連合総会で採択され、6月3日に署名式が行われたのですが、それを10年越しでいろいろなNGOと一緒に呼びかけてきました。
――三つ目の「子ども兵」については本書を読んでいたときに、非常に衝撃的なエピソードとして印象に残りました。
鬼丸:そうですね。ウガンダ、コンゴ民主共和国、ブルンジという3つの国で、子ども時代に兵士だった人たち、“元子ども兵”の社会復帰を支援しています。
本にも書きましたが、彼らは兵士にさせられて、自分の家族や親せき、住んでいた村を襲えと命令されます。そのときの精神的な傷や障害は、大人になっても深く残り続けるんですね。そうした人たちに対して、社会復帰を応援するために、職業訓練や識字教育、スモールビジネスの指導をしています。
そして四つ目は、現場支援と同じくらい大事なことである、日本国内での啓発活動です。問題を根本から解決するためには、背景や原因を探って、その部分から取り除くしかありません。つまり、社会構造を変える必要があるのですが、実はこの問題が起きている大きな要因の一つは先進国なんです。最近ではフェアトレードなどが広がっていますが、私たち先進国の人間ひとりひとりがライフスタイルを少しずつ変えていくことで、世界全体が変わっていくはずなんですね。時間がかかるとしても、発展途上国の問題に変化を与えることができる手段はそれが一番良いんです。だから、私は年間100回ほど、全国を飛び回って講演しています。また、2011年3月11日以降は、東日本大震災の被災地の支援活動も行っています。
――『僕が学んだゼロから始める世界の変え方』は現地での支援活動よりも、そうした啓発活動の方法について重点的に書かれている印象がありました。私の友人にもNPO、NGOで活動している人がいるのですが、自分たちの想いを伝えるというのは難しいと聞いたことがあります。目の前の人にも伝わらないことも普通にありますよね。
鬼丸:それはもちろんあります。ただ、本にも書いたけれど、プレゼンや講演で起きたこと…伝わらないこともそうですし、逆もそうですが、それは100%伝え手に原因があると思います。それは書くことも同じです。伝わらなかったら、伝える努力が足りなかったんです。
――そうですね。でも、どうすれば“伝わった”といえるのでしょうか。
鬼丸:それは、相手に事実と物語を提示して、相手の心が動き、変化を起こしてもらえれば“伝わった”と言えると思います。先ほどおっしゃったように、伝わるってすごく難しいんです。普段の生活の中で、途上国の問題を意識することはほとんどないでしょう。もちろん関係はあるけれど、目の前にある問題ではないですから。忙しい生活の中でわざわざ遠く離れた異国の、それも見ず知らず人々のことは想わないですよね。それは僕も同じです。ただ、その日常の中に途上国や世界を想うことを、どこかに組み入れていかなければ、問題は解決に向かいません。
僕は、そういう風に変わってもらうために、想いとプレゼンの技術両方が必要なのだと思っています。伝わる技術がなければ変化は生まれにくいんです。
――想いが伝わる上で最も大切なことはなんだと思いますか?
鬼丸:それは相手へのリスペクトですね。これまでたくさん講演をしてきましたが、小学生、中学生、ご老人、どんな方々も、リスペクトする気持ちを持つことで、話を聞いてくれるんです。
逆に伝わらないときもはっきりとしていて、「自分は良いことをやっているから伝わって当たり前だろう」という気持ちが少しでもあるときです。「どうして理解してくれないんだ」と思ってしまうときは、伝わりませんね。
――講演が始まる前に何か自分の気持ちを高める儀式のようなものはやっていますか?
鬼丸:相手を信頼する、想いを高めるための儀式はあります。それは、皆さんももしかしたらやっているかもしれませんが、音楽を聴いてスイッチを入れますね。Superflyや小田和正さんを聴きます(笑)
――すごく不思議なのが、鬼丸さんは本書の中で自分のことを「面倒くさがり」だと評しているんですね。でも、そんな人が同じ活動を10年以上、先頭に立って続けてきているというのは、すごく意外でした。
鬼丸:この活動をやめるということは決めてないからでしょうね。やるべきものですから。もし団体が資金難になって職員たちを他の団体に転職を斡旋して、僕一人になっても、アルバイトでお金を稼ぎながら、続けると思います。
また、この活動をしていると、社会から承認してもらえるし、講演での素晴らしい出会いもあって…そういう意味でも、やめる選択肢はありませんね。
――バイトしてでも続けるという、そのくらい覚悟を持つ原点はなんですか? 本書でも引用されている高校生のときに参加したスリランカへのスタディ・ツアーで聞いたアリヤラトネ博士の言葉も印象的ですが。
鬼丸:もちろん、博士の言葉も活動を続ける上での原点の一つです。でも、それだけではありません。活動の原動力になっているのは、何よりも活動を続ける中で、自分自身も変化、成長できるということを証明したい、自分も社会に役立っているということを確認したい欲求だと思います。だから、やめるわけにはいかないし、実は使命感も気負いもそこまでないんです。
――こうした社会的な活動をされている方は、強い使命感を持っている人も多いですが。
鬼丸:使命感は大切ですが、こだわり過ぎないほうが、何かが起きたときに、心が折れなくてすむような気がします。
――確かに、大きな挫折があったときに、道が断たれるともう先に進めなくなりますよね。
鬼丸:そうなんです。目的にはこだわるべきですが、手段にこだわってはいけません。私たちは目的を追求し、達成するために活動しているので、その手法にこだわる必要はあまりないんです。「こういう手段で達成するんだ」というこだわりが強いと、それが目的化してしまって、もしその方法では達成できないことが分かったとき、折れてしまうんです。
僕は世界を平和するために、あらゆる手段があっていいと思います。そう思っていれば、活動は継続すると思いますよ。
(後半では鬼丸さんのパーソナリティを解き明かしていきます。子どもの頃は「各国の在日大使館に電話をかけて資料請求をする」ことが趣味だったという鬼丸さん。一体どうしてそんなことをしていたのでしょうか…?)
<イベント情報>
●鬼丸昌也さん講演会&サイン会(東京)を開催!
日時:6/7(土)16:30開場 17:00開演
場所:八重洲ブックセンター本店 8階ギャラリー
参加方法:参加無料・定員100名(申し込み先着順)※定員になり次第、締め切らせていただきます。
申込方法:八重洲ブックセンター本店にご来店、又はお電話によるお申込み可。 03-3281-8201
http://www.yaesu-book.co.jp/events/talk/3908/
※講演会終了後、会場にて書籍をご購入いただいたお客様を対象にサイン会を実施いたします。(お持ち込みの本・色紙・グッズ等へのサインはできません)
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