本を知る。本で知る。

芥川賞作家の「幻の処女作」とは

 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第56回目の今回は、「穴」(『穴』に収録、新潮社/刊)で第150回芥川賞を受賞した小山田浩子さんです。
 「穴」には、田舎に移り住んできた主婦「あさひ」の前に時折現れる、日常の中の「異界」が描かれています。善良な人々と、普通の風景、だけど何かがおかしい!?
 この違和感の虜になったら、もう引き返すことはできません。
 各方面から絶賛を集めるこの作品の原点はどんなところにあるのか。授賞式翌日の小山田さんにお話を伺いました。注目の最終回です!

■いつかは妊娠・出産も小説に
―小山田さんが小説を書こうと思ったきっかけがありましたら教えていただければと思います。

小山田:小さい時から本が好きで、当時はいつか小説家になれたらいいなと思っていました。現実的に考えるようになったのは、夫に「書けるんじゃないの?」と勧められたことでしょうか。

―小山田さんの方から書きたいといったわけではなく。

小山田:そうですね。夫は元々、私が勤めていた編集プロダクションの先輩だったんですよ。私が新人だった頃、書いた記事に赤を入れてもらった時に「文章が記事向きじゃない」と言われたことがあったんです。「こういう文章を書くのであれば小説の方がいいんじゃないか」って。今考えると皮肉だったと思うんですけど(笑)。
それを私はいいように受け取って「小説なら書けるのかな」と勘違いしてしまったのがきっかけですね。

―そして、最初に書いた作品で新人賞を受賞とはすごいですね。

小山田:実は受賞した「工場」と並行して短いものをもう一本書いていて、地元の新聞社の文学賞に応募したんですけど、それは一次審査も通らずに落ちてしまいました。

―別の作品とはいえ、同じ人が書いたのに賞を取ったり一次審査で落ちたりといったことがあるんですね。

小山田:そうみたいです。その作品はちょっとだけ自信があって、一次審査くらいは何とか通ってくれないかなという気持ちで応募したんですけど、ダメでしたね。そんなに何千通も応募がある賞ではないので期待していたのですが(笑)。
ただ、受賞した作品はすばらしかったので、然るべき結果だったと思っています。

―作風に影響を受けた作家さんはいらっしゃいますか?

小山田:たくさん好きな作家さんがおられるので、自覚しているかどうかに関わらずどの方からも影響は受けていると思います。
しいて言うなら、バルガス・リョサが好きで、特に『緑の家』には影響を受けていると思います。時制が混濁したり、話が前後しながら進んでいくのですが、「こういう書き方もありなんだな」と知ることができました。それによって「工場」が書けたというのはあります。おこがましいお話ですが。

―『緑の家』も、もともとは2つのお話だったものを1つに繋ぎあわせてできたそうですから、確かに小山田さんの手法と共通点がありますね。

小山田:そうかもしれません。別々のものを繋ぎあわせることで、本人の意図していなかった効果が出ているのがおもしろいですよね。

―小さい頃からかなり本を読まれてきたかと思いますが、好みに変化はありましたか?

小山田:子どもの頃に読んでいたものを今でも読みますから、好みは変わっていないと思います。小学生の時に読んだ『吾輩は猫である』がすごくおもしろくて、笑いながら読んだ記憶があるのですが、今も大好きです。『吾輩は猫である』も読むし『かいけつゾロリ』も読むというところは今も変わってないですね。

―では『ズッコケ三人組』シリーズなども。

小山田:読んでいました。作者の那須正幹さんが広島のご出身だということもあって、馴染み深い作品です。近所にズッコケ三人組の像がありますよ。

― 一人で本を読んで過ごすことの多い子ども時代だったのでしょうか。

小山田:そうですね。友達とみんなで遊ぶ方ではなかったです。育ったところが田舎なので、一人で庭で虫を取ったり葉っぱをむしったりしているか、本を読んでいるかという感じでしたね。

―それだけあって「穴」でも、草むらなど自然の描写が生き生きしていましたね。

小山田:田舎なのでそのあたりは割と日常風景なんですよ。ただ、人よりも動物や植物をきちんと描写したいなと思っていて、そういうところには時間を割いています。

―人生で影響を受けた本がありましたら、3冊ほどご紹介いただければと思います。

小山田:これまでに名前が挙がった『吾輩は猫である』と『緑の家』は入りますね。あと1冊は東海林さだおさんの『タコの丸かじり』にします。「丸かじり」シリーズは中学生くらいの頃から好きで、今でも新刊が出るとすぐに買っています。
淡々とした文体で、ふざけているわけではないのですが、トータルで見ると笑えるんです。いつかはああいうおもしろい文章を書けたらなと思います。

―最後に、読者の方々にメッセージをお願いいたします。

小山田:私事なのですけども、昨年はじめて妊娠と出産を経験しました。「穴」において夏の草の匂いなどをがんばって書いたように、いつかは妊娠や出産についてもうまく小説にできたらなと思っています。完成したあかつきには読んでいただけたらうれしいです。

■ 取材後記
作品の執筆エピソードや、ご自身のユニークな小説の書き方、好きな本など、たくさんのことを語っていただきました。
小山田さんの新刊『穴』には、表題作で芥川賞受賞作の「穴」のほかに「いたちなく」、「ゆきの宿」の短編2作も収録。こちらもすばらしいので、「穴」だけで終わりにせず、ぜひ最後まで読んでみてください。
(インタビュー・記事/山田洋介)

関連記事
芥川賞受賞作 誕生の秘密を語る(小山田浩子さんインタビュー【1】)
芥川賞『穴』を生んだ独特な小説手法(小山田浩子さんインタビュー【2】)
好況から突如どん底に バブル崩壊の記憶(藤岡陽子さんインタビュー前編)
古川日出男、大長編『南無ロックンロール二十一部経』を語る(1)

株式会社オトバンク「新刊JP」

次これ読もう、が見つかる「新刊JP」 日本最大級の書籍紹介ウェブサイト。話題の書籍や新刊本をブックナビゲーターが音声で紹介するインターネットラジオ番組「新刊ラジオ」や、書評記事、イベントレポート、出版業界の動向などを提供するニュースメディア「新刊JPニュース」、旬の作家のインタビューを掲載する「ベストセラーズインタビュー」、書店をフィーチャーした企画や電子書籍レビューなど、本にまつわるコンテンツを豊富に揃えています。あなたの「あ、これ読みたい」が見つかるはずです。

記事一覧 公式サイト

新刊JPニュースの一覧

一覧をみる

書籍アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

漫画アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?