見出し:USJの魅力溢れるアトラクションはどのようにして生み出されたのか?
テーマパークには「周年の呪い」というジンクスがあることを知っているだろうか。これは、○周年イベントの翌年は来場者数が減るというジンクスなのだが、このジンクスに負けずに来場者数を増やし続けているテーマパークがある。それが大阪にあるユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、USJ)だ。
大人気エンターテインメントコンテンツのアトラクションやイベントを次々と繰り出し、大人も子どもも楽しめるUSJ。2014年には、映画『ハリー・ポッター』シリーズの世界を忠実に再現する 「The Wizarding World of Harry Potter」のオープンが控えている。
『USJのジェットコースターは なぜ後ろ向きに走ったのか?』(KADOKAWA/刊)はV字回復の立役者であるCMO(最高マーケティング責任者)の森岡毅さんが、3年間のUSJの軌跡と、来客数を増やすマーケティング手法を明かした一冊。今回は森岡さんにインタビューを行い、アイデアを生む秘訣などを聞いた。
(新刊JP編集部)
■魅力的なアトラクションはどのように生みだされたのか?
――森岡さんが2010年にP&GからUSJに転職した理由からお聞かせ願えますか?
森岡毅さん(以下敬称略):USJの代表取締役CEOであるグレン・ガンペルとの出会いがきっかけとなりました。 私は大学を出てP&Gに入社した時から「自分の能力を高める経験を加圧して積めるかどうか」が、会社選びの一貫した基準でした。 それと全く同じ理由でUSJに転職したのです。 3年前の38歳だった私にとって、自分の成長カーブを更に高める場所として、グレン・ガンペルのいるUSJという場所がとても魅力的に思えたからです。 また、P&Gのような大企業ならではの整った人材やシステムに頼るのではなく、USJのような甚だ未完成の会社で自分の本当の力を試してみたかったというのも本音です。
――もともとエンターテインメント業界に造詣が深かったのでしょうか。
森岡:いわゆるビジネスとしてのエンターテイメント業界の経験も知識も皆無でした。 まったく新しい畑に飛び込んだのです。 ただ、エンターテイメントをこよなく愛する1消費者としての特性はかなり持ち合わせた人生を送ってきました。 私は凝り性で趣味は多彩で、仕事は超効率的にこなして、プライベートは家族や個人でものすごく充実したエンターテイメントライフを送ってきましたので。 テーマパークもものすごく好きで、USJに入社するまでに世界の主なパークは全て制覇していました。
――映画主体からエンタメ主体へ、テーマパークの持っている軸を変えるということはUSJの経営において大きな変革であったと思いますが、いかにして社内の声を調整したのですか? 反対の声などはなかったのですか?
森岡:調整しようとしていたら実現できなかったと思います。 衝突や嫌われることを恐れずに突破しようとしたからこそ実現できたと思います。 実際、私の全職責をかけて全責任を取る覚悟で、突破するしかありませんでした。 日本人がよくやるゴニョゴニョした根回しは、これほどの大方針転換の場合は無力だと思っていました。 何故なら、結果が出るまで誰にも答えがわからない中で、結局は誰かがリスクをとって進むべき道を明確に指し示し、断言するしかないのですから。 私の覚悟と能力を買って支えてくれたグレン・ガンペルの存在が大きかったです。
――この3年間でUSJの来場客数はV字回復をしましたが、それまでのUSJに最も欠けていたものはなんだと思いますか?
森岡:消費者の価値に繋がらない「まちがったこだわり」から会社を救うマーケティングのリーダーシップが欠けていたと思います。 どれだけ従業員が誠実に努力しても、こだわるポイントが消費者のニーズからずれていては、ビジネスの結果は実りません。 消費者を徹底的に深く理解し、全ての経営資源を、消費者価値を高める最も戦略的な1点に集中させることこそ、マーケティングの使命だと考えています。 それを断行するのは相当大変だったのですが、新参者で過去とのしがらみが全くない私だからできたのだと思います。
――魅力的なアトラクションを次々と生み出していった森岡さんですが、アイデアを考えるときに使っている物や場所はありますか?
森岡:もっとも大事にしているのは、パークを歩くことです。 人間の脳は、その文脈に置くことでより高いパフォーマンスを発揮すると私は信じています。 テーマパークのアイデアを考えるべき文脈は、テーマパークをゲスト目線(消費者目線)で歩くことです。 その次に、パークを歩きながら他の多くのゲストの表情を観察分析することです。 私はもちろんタダでUSJに入れるのですが、消費者目線を大切にするためにしょっちゅう自腹で家族6人分の入場料を払ってパークを歩いています。 よく「どうしてそんなに頻繁に自腹でチケットを買うのですか?」と驚かれますが、私としては、値段に見合う価値があるのかを理解するのに、自分で払わずに一体何がわかるのだろうと逆に不思議に思っています。 徹底的に消費者目線です。 なので41歳の私には、年齢や性別的に抵抗がある様々なゲームやアニメなども、本気で消費者目線で体験することを欠かしません。 あとは、お風呂ですかね。 風呂の温度をめちゃくちゃ熱くします。 10分も入ると気が遠くなってやばいのですが、気が遠くなる前にアイデアを閃こうといつもよりも必死になれます。 そんなパワータイムを設けたりしていますが、健康に悪いかもしれませんので真似はしないで下さいね。
(後編に続く)
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