自分の身内や知人に、40代後半になってもフリーター生活を続けている男性と付き合い続けている女性がいたら、どんな印象を持つだろうか。
人によっては「将来がないからあの人はやめておきなよ」とはっきり言うかもしれないし、口では「人それぞれ生き方があるから」と言いながらも、心のどこかで「うわ、それはないわ…」「自分には絶対ムリ」と思う人もいるだろう…。
正社員として働き、安定した収入を確保することが、とりあえず当面は金銭面での不安を軽くすることはまちがいないし、それを「幸せ」の条件だとするのもうなずける。
しかし、やはりそれだけではないのだ。
『稼がない男。』(同文館出版/刊)は、フリーライターの西園寺マキエさんが、30代の初めから長年交際を続けてきたパートナーとの日々をつづった一冊。お気づきの通り、冒頭の女性とは西園寺さんのことである。
西園寺さんのパートナー「野口ヨシオ」は47歳のフリーターだ。
名門と呼べる大学を出て、留学経験もある「ヨシオ」は、大学卒業後に大手広告代理店に入社したが、会社員生活に疑問を感じ、一年も経たないうちに辞めて、アルバイトをしながら好きな絵を描く生活に突入。そのまま30代に入ってすぐ、同い年の西園寺さんとの交際がスタートした。
当時駆け出しのフリーライターだった西園寺さんが徐々に仕事を増やしていくのと対照的に、アルバイトで月に5万円ほど稼ぎ、実家でのんびりと暮すヨシオ。彼のペースは家庭の事情で一人暮らしを始めても変わらない。根本的にお金を稼ぐことが好きではなく、お金への執着心が薄いのだ。
付き合った当初は「いつかは画家として成功してくれるかも…」という淡い期待もあったという西園寺さんだったが、ヨシオは絵でお金を稼ぐ気はまったくなく、1年に2作程度しか描かない。結婚願望があったことに加えて、「社会に迷惑をかけずに生きるのに必要な分は稼ぐ。それ以上は働かない」というヨシオの生き方も、ときに西園寺さんを苛立たせ、悩ませたようだ。
しかし、ヨシオは「自分らしく生きて、自分をまっとうする」という自分の生きる基準を持って、お金がなくても満足できる生き方をしている。そして、なによりも彼はとにかく明るく、貧しいことに対する悲壮感も卑屈さもない。お金はないが、お金がないなりの楽しみを持って充実した人生を送り、「結婚して養う」という方法ではないが、傍らにいる西園寺さんを幸せにしようとしている。
そうしたヨシオの生き方や考え方は徐々に西園寺さんにも浸透し、二人は結婚しないまま今も楽しく仲良く暮らしている。ちなみに、今のヨシオの収入は月に手取り11万円ほどだそうだ。
金銭的なことに価値をおくのをやめれば幸せに生きられるということではない。実際、お金の問題は常に二人に付きまとってきたし、これからも付きまとうはずだ。
ただ、お金がなくても幸せに生きる方法がないわけではないというのは一つの事実だろう。幸せかどうかというのは結局のところ自分の考え方一つであり、ヨシオは自分に合った生き方を知っていて、その通りに生きている「幸せな男」なのだ。
「幸せとは何か?」という答えを、この本は提示してくれない。しかし、「47歳・フリーターだけど人生の楽しみ方を知っている男」にどんな印象を持つかは、この問いについて考えるのと同じことだ。
ぜひ本書を読んで、自分なりの答えを探ってみてほしい。
(新刊JP編集部)
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