東野圭吾さんの最新作となるミステリー『疾風ロンド』(実業之日本社/刊)が、発売後たちまち100万部を突破する驚異的なヒットとなっている。
本書は、同氏の作品としては異例の「文庫書き下ろし」という形で発売された。これは、2010年にやはり実業之日本社から「いきなり文庫」(雑誌掲載から単行本を経ずに文庫化する形態。“書き下ろし”ではない)で発売された『白銀ジャック』が大ヒットしたことから、「次はもっと早く文庫の形で作品を届けたい」という東野さんの希望に沿う形で実現したものだ。
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ある研究機関で極秘に開発されていた生物兵器「K-55」が盗み出され、犯人によって雪山に埋められた。
「雪が解け、気温が上がればその物質は散乱する。場所を知りたければ3億円を支払え」
そう脅迫してきた犯人だったが、あろうことか彼は事故死。
上司から生物兵器の回収を命じられた研究員は、犯人が遺した数枚の写真と息子から聞いたヒントだけを頼りにあるスキー場に向かうが、予想もしなかった出来事が次々と彼を襲う…。
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この作品の編集を担当した実業之日本社の上田美智子さんが「残り数ページになっても結末がまったくわからない。最後の最後まで波乱がある」と語るように、ゲレンデを舞台に繰り広げられる物語のダイナミズムとスピード感がこの作品の最大の魅力。緊張感のある場面が続くが、その中に絶妙なタイミングでユーモアが投げ込まれ、読者を飽きさせず、疲れさせず、最後まで一気に読ませてしまう。
また、作品を通して東野さんのパーソナリティが垣間見えるのも、ファンにとっては見逃せないポイントだ。
自身も年間40日はスノーホードに行くという東野さんの、ウィンタースポーツやスキー場への愛情が作中の描写には色濃く表れている。それだけに、近年言われているスキー、スノーボード人気の低下や、スキー場の経営状態の悪化は気になるようだ。そこで同社では「ゲレンデへ行こう!」キャンペーンを企画した。これは全国の有名スキー場とタイアップして行われ、ゲレンデに設置されたスタンプと、本作カバーについている応募券を併せて応募すると、東野さんの直筆サイン入りスノーボードやリフト券など豪華な景品が当たるというもの。
「小説を読んでゲレンデに行きたくなる、ゲレンデに行って、小説を読みたくなる、そんな双方向の流れができたら」(上田さん)というのが狙いであり、再びウィンタースポーツのブームが来て、業界全体が活性化してほしいという東野さんの気持ちも読み取れる。
申し分のない面白さの物語、そしてちょっと変わったキャンペーンなど話題の多い本作。
スノースポーツが好きな人が小説にはまるきっかけに、小説が好きな読書家がスノースポーツのおもしろさに目覚めるきっかけになるかもしれない。
(新刊JP編集部)
■実業之日本社『疾風ロンド』「ゲレンデへ行こう!」キャンペーン(http://shippu-rondo.jp/)
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