経営者や幹部クラスならともかく、「コンサルタント」の仕事をしている人と一緒に仕事をすることは少ないだろう。
しかし、テレビを見ていると、コメンテーターとしてコンサルタントという肩書きを持っている人が多く出演している。彼ら「コンサルタント」は一体どんな仕事をしているのだろうか?
『この1冊でさらにわかる コンサルティングの基本 ベストプラクティス集』(神川貴実彦/編著、日本実業出版社/刊)は、コンサル業界の実態やどんな仕事をしているのかが分かる一冊。コンサルタントを目指している学生やビジネスパーソンにはまさにうってつけだ。
コンサルタントの仕事をしている人は大きく二つに分けることができる。
一つは独立するなどして個人で専門分野のコンサルタントとして活動している人たち。そして、そしてもう一つは、コンサルティングファームに所属して仕事をしている人たちだ。
コンサルティングファームはコンサルタントを主軸の事業とする会社のことで、アクセンチュア、A.T. カーニー、日本総合研究所など、名だたる名前が並ぶ。本書では、そうしたコンサルティングファーム10社のプロジェクトを実例としてあげている。今回はその10社の中から、ローランド・ベルガーの事例をピックアップしてみよう。
■「本当に強いブランド」を作りだすローランド・ベルガー
伸び悩みに頭を抱える大手ホテルグループA社は、稼働率向上のために行った値引きも期待を下回り、収益は予想以上に悪化。さらに2000年代にあらわれた空前のホテル開業ラッシュの波に飲み込まれ、赤字が確実な状態にまで陥ってしまった。
A社の社長は、自社のコーポレートブランドの見直しをすることでグループの勢いを取り戻そうと、企業・ブランド再生の実績が豊富なコンサルティングファーム、ローランド・ベルガーに発注した。
ローランド・ベルガーでは、ブランドを「消費者(BtoBビジネスであれば顧客企業)が企業や製品、サービス、お店等に対して思い浮かべる価値イメージ」と定義している。価値イメージとは、例えば「高品質」「クール」「コストパフォーマンス」といった消費者の心に存在する普遍的な価値観のことで、ローランド・ベルガーは長きにわたる研究から、消費者が感じる普遍的な価値を20のタイプに体系化してきた実績があった。
しかし、A社の場合、以前から認知度が高く、すでに消費者からの価値イメージも定着している。そこでローランド・ベルガーは戦略そのものを見直すことを提案した。
彼らは強いブランドをつくるためには「コンセプト」(戦略そのもの、お客様にどんな価値を提供するのか)×「オペレーション」(日常業務全般)×「組織」(インフラ)の3つが必要条件であるとしており、この3つを包括的なサービスとして同時に提供できる強みを持っていたのだ。
そして、ローランド・ベルガーはA社のブランド戦略の再生を3つのフェーズに分け、約半年で完了するスケジュールを組む。
最初の1ヶ月となるフェーズ1では現状の分析と仮説の構築を行い、次の2ヶ月間ではブランドコンセプトの策定、そしてラストの3ヶ月間で具体的な体制の構築をしていく。さらにプロジェクトへのアプローチの仕方もかなり濃く、「こうすれば上手くいきますよ」という程度のものではなく、まさにゼロからの見直しを行い、クライアントとともに一緒に再生を進めていくことが本書を読めばよく分かるだろう。
約半年の再生プロジェクトを終えたA社は、ブランド・企業再生のステップを確実に歩み始め、狙い通りの価値イメージを消費者に与えられることができるようになったという。
この他にも、A.T. カーニーの「グローバル展開の戦略策定支援」、アクセンチュアの「『サステナビティ』を実現するコンサルティング」、プライスウォーターハウスクーパースの「グループ経営管理の高度化と経理業務コストの削減」といったものから、M&Aや人材マネジメントまで、コンサル業界の領域全体が包括的に説明されているので、コンサル業界の全容が把握しやすい。
さらに、よくコンサルタントが個人で論理的思考の本やコンサル的な考え方ができるための指南書を執筆しているが、本書はそういったものとは一線を画している。
本書の執筆陣が現役コンサルタントであり、この本で取り上げられているコンサルティングファームは競合関係にあたる。その壁を乗り越えて、コンサルティングファームの現場で培われたビジネスの思考法が紹介されているのは、まさに異例のことだ。また、コンサル業界に転職を考えていない一般的なビジネスパーソンでも、普段の仕事でも活用できるようになっている。
本書の10のプロジェクト事例を通して、コンサルティングファームとはどんなところなのか、彼らは何をやっているのかを把握することができるだろう。また、神川氏が執筆している『この1冊ですべてわかる コンサルティングの基本』(日本実業出版/刊)は本書の前編にあたるので、二冊一緒に読めばさらに分かりやすくなるはずだ。
(新刊JP編集部)
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