長時間労働や休日出勤、サービス残業、そして過労死など、日本人の過酷な労働環境は、ここ数年大きな問題となっています。
この状況に警鐘を鳴らしているのが『日本に殺されず幸せに生きる方法』(あさ出版/刊)の著者、谷本真由美(@May_Roma)さんです。谷本さんは、本書のなかで「今すぐ働き方を変えないと、つらく恐ろしい未来が待っている!」として、日本人の働き方と日本の労働環境の異常さを指摘しています。
では、私たち日本人の働き方は、どんな点が、どのくらい異常なのか。谷本さんご本人にお話を伺いました。後編となる今回は、ご自身がお住まいというロンドンの労働環境について語っていただきました。
―本書ではロンドンをはじめ各国の労働についても紹介されていますが、それぞれ文化の違う国同士を単純に比較するのはリスクもあります。今回、海外の事例を多く取り上げた狙いとはなんだったのでしょうか。
谷本「海外の事例を取り上げた理由は、日本の働き方や考え方、やり方というのは、広い世界の中でのある一部分に過ぎず、違う土地に行くと、全く異なった考え方ややり方、働き方というのがあるというのを知って欲しいからです。異なることを知ることで「これが絶対に正しい」と言われていたことは実は違うことだったんだ、とわかることがあります。世界は広く、正しいことは一つではないのです。また、異なる土地には、日本でも参考になる考え方や仕組みがあります。日本は違う国だ、日本は文化が違う、と押しのけてしまうのではなく「こういう土地にはこういう考え方ややり方がある。これの部分は良いね。ちょっと真似してみようか」と考えることができます。日本は島国で、古来から海の向こうの言語や考え方、宗教、やり方、制度などをうまく取り入れて発達してきた土地です。働き方に関しても、異なる土地の考え方ややり方から、良い部分を取り入れて、日本風に進化させて日本をより良い国にして欲しいのです」
―谷本さんがロンドンに移り住んだ時に感じた第一印象はどのようなものでしたか?
谷本「外から見る「イギリス」のイメージと随分違い、ロンドンは、ニューヨークやバンクーバーのような多国籍都市だ、ということです。ロンドンは人口の半分ぐらいが外国生まれです。伝統も大事にしていますが、伝統と多国籍な文化が混ざり合っています。そのようなダイナミックな混ざり合いから、面白い考え方や文化がうまれます」
―これまで谷本さんが暮らした国から、日本はどのような国だと思われていたのでしょうか。
谷本「どこの人でも日本と言ってまず思い浮かべるのは、ハイテクだということです。次に、サムライやニンジャ、スシなどの独自の文化があることです。日本とあまりなじみのない人だと、ハイテクと伝統文化が混ざりあった謎の国というイメージを持つようです。イタリアなどは日本のアニメや漫画の影響が強いため、日本のことをマニアックなレベルで良く知っている人が結構います。「ゼニガタ(漫画『ルパン三世』の銭形警部)がスパゲティジャポネーゼ(ラーメン)を食べているからヌードルが好きらしい」「リョーサエバ(漫画『シティーハンター』の冴羽獠)はカオリ(同作の槇村香)より弱い。そして日本の駅には掲示板がある」などです」
―海外在住の谷本さんですが、日本の情報はどのように仕入れていますか?
谷本「ネット、電子書籍、雑誌の電子購読、学術論文、商用データベース、動画です。書籍を輸入することもあります。ネットがあるので海外に住んでいても日本と同程度の情報を得ることが可能です」
―現在お住まいのロンドンの労働環境についていい点を挙げるとしたらどのようなところになりますか?
谷本「良い点は契約社会なので働く人各自の担当すること、業務の条件、報酬、目標が文書上で明確になっていることです。合意した以外の業務を押し付けられたりすることは原則的にありません。実力主義なので、評価されるのはスキルや稼げるお金の金額です。ですから、国籍や性別にあまり関係なく稼ぐことが可能です。フリーランスや経験年数が短い若い人でも、何か光るものがあれば、チャンスを与えてもらえたり、それ相当の報酬をもらえることがあります。減点主義ではなく加点主義なので、何をどのくらい間違えたではなく、何々ができる、何々で儲けた、など、他人とは違う才能や実績があることを評価してくれるのも良い点です。また、仕事で不当な差別やイジメなどが会った場合に訴えることができる仕組みがあることは心強いです。また以外な点ですが、業務の流れを文書化したり、業務を補助する情報システムなどには積極的に投資しますので、仕事のやり方が効率的です。ロンドンには世界中から人が集まってくるので、働く人が本当に多様です。比較的規模が小さな職場であっても、国連総会の様に様々な人が集まっています。様々な人がいるので、異なる文化や異なる考え方に触れることができるのは大きな魅力です。グローバルな視点で業務を動かして行くことが多いのも面白いです」
―反対に、悪い点はどのようなところだとお考えですか?
谷本「悪い点は、おおらかな人が多いので、細かい部分は気にしないことがあることです。仕事の緻密さやスピードは日本に負けてしまいます。権利を主張すること、自分の意見を持つことが当たり前の国なので、働いてもらう人やプロジェクトの利害関係者には、その業務をやる理由や、ポリシーを実装する理由を理詰めで説明し、納得してもらわないと動いてくれません。説明や説得が得意ではない人や、コミュニケーションが不得意な人には辛い環境です。曖昧な物言いは通用しませんし、日本的に「友達だからやってくれ」が通用しないのです。自分の担当以外の業務をちょっとやってもらう、というのも難しいので、柔軟な対応というのは期待できません。合意や説明には文書が基本になるので、文書を作る手間がかかります。書くのが不得意な人が管理職になったりプロジェクトマネージャになると大変です。また、基本的には実力主義の社会なので、常に数値など目に見える形で自分の実績を証明しないと、希望するポストや報酬を得ることができません。自己アピールが得意ではない人には辛いです。さらに、実績主義だと、できる人にはそれ相応の報酬を払わないと仕事してもらえないので、人件費が高騰することもあります。また、それといった技能がない人の報酬は低いです。収入の格差が凄まじいのです。日本の大都市に比べると、多種多様な人が働いていますので、差別や労働者保護に関する法規が複雑です。知らないうちに法規を犯してしまったとか、従業員に訴えられてしまう、ということがない様に、差別や宗教的なタブーに気を使わなければなりません。知らなかった、ではすみません。世界中から様々な人が集まっているので、職場やプロジェクトによっては、メンバーの間に共通する文化的基盤が全くない、ことがあります。共有する物がないと、最初からすべて説明しなければなりませんので、大変な手間です。この多様さには、イギリス国内の階級差も含みます」
―この本を通じて谷本さんが伝えたかったことはどのようなことですか?
谷本「日本での働き方はあくまで働き方の一つであり、世界には異なるやり方があること、また、働き方を変えて行かないと、日本はどんどん沈没して行ってしまうので、働く人一人一人が考え方を変えて行く必要がある、ということです」
―最後に、読者の方々にメッセージをお願いできればと思います。
谷本「本書を通じて、日本の今の働き方というのは、ある一つのやり方でしかないこと、また超高齢化社会になって行く日本に必要なこととは何なのかということを考えるのに、同書を活用して頂ければ幸いです」
(新刊JP編集部)
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