何年も英語を勉強しているのに、あまり上達しない。いざ外国人を前にすると言葉がでてこないなど、英語に限らず語学学習に励む人なら一度はこんな壁にぶつかります。
語学の習得は一朝一夕方にはいかないとわかっていても、もっと効率のいい勉強法はないのかと考えてしまいますよね。
『まずは動詞を決めなさい。』(サンマーク出版/刊)の著者で多言語翻訳者の網野智世子さんは、英語を含めたあらゆる言語を習得する際の重要ポイントとして動詞を挙げています。この動詞を意識的に覚え、使えるようになることによって、語学の習得がスムーズに進むのです。
しかし、なぜ言語において「動詞」が重要なのでしょうか。
網野さんご本人にお話を伺いました。今回はその後編をお送りします。
■日本人の英語習得を妨げる「日本語の特性」
―今もどんどん新たな言語を習得し続けているという網野さんですが、ご自身を語学に駆り立てるものは何でしょうか?
網野「話者が少なく、日本人からするとマイナーな言語のように思える言葉でも、動詞という観点から見ると、それぞれの言語にそれぞれの面白さがあるんですよ。
動詞は人生が変わったきっかけでもあるので(笑)動詞に対するテンションが高いといいますか、一種の高揚感があります。
動詞に強くなれば、どんな言語でも身につくんじゃないかというのがあるので、それぞれの言語を、動詞中心に勉強しようと思っています」
―どんな言語でも、動詞さえおさえていればある程度のレベルには行けるものなのでしょうか。
網野「そう思います。私自身、初級文法だけ勉強しておけばいいと思っている言語も多いのですが、そういった言語でも入門書を見ると動詞関係の項目はすごく多いんです」
―本書を読んで、日本語の特性が日本人の外国語学習をさまたげているようにも思えました。網野さんから見て、他の言語にはない日本語の特性としてどのようなものがあるとお考えですか?
網野「日本語だけということでいうと、漢字の名詞が、文法的には名詞であるにもかかわらず、意味的には動詞のような働きをすることが挙げられます。
「体言止め」というのがありますけど、"参加"と書くと"参加する"あるいは"参加した"という動詞の意味まで表すことができます。同じく漢字を使う中国語でも"参加"だけで動詞として通じることがあるんですけど、中国語の場合は文法的に動詞として使っているか名詞として使っているかを区別できるんですよ。
日本語の場合は"参加"だったら「する」をつけないと文法的には動詞にならないのですが、"参加"だけで"参加する"という意味も含んでしまうので、"参加"という名詞に"お願いします"をつけて会話が成り立ってしまう。
"提出"などがそうなのですが、"提出してください"と動詞の形を作って言うよりも、"提出お願いします"といったほうが自然ですし、柔らかい言い方になったりもします。
このように、日本語では漢字の名詞が万能な役割を果たすのですが、他の言語はそうではないために、日本語の感覚で英語に触れると、自然なSVOベースの言い回しが頭に入ってこないということがいえると思います」
―語学は多くの人が関心を持つ反面、挫折してしまう人も多くいます。挫折せずに語学学習を続ける秘訣がありましたら教えていただければと思います。
網野「動詞フォーカスメソッドとは別の、精神論的なお話として二つほどあります。
一つは語学というのは、あるハードルを越えなければ身につかないものではなく、どんなに短い時間でも、積み重ねた分確実にプラスになっていくということです。"英検1級に受からないと英語が身についたことにならない"ということはありません。
もちろん、自分のモチベーションとか、語学力の目安としてTOEICの点数だとか検定試験合格を目標にするのはいいのですが、試験の合否や目標の点数に届いたかどうかというのは、語学が身についたかどうかとは別問題で、その過程で覚えたことは必ずプラスになります。
もう一つは、自分自身で壁を作らないことですね。時間がないからとか海外留学経験がないということで、勝手に自分でブロックをつくって諦めてしまうのはもったいないですから。英語に関していうなら、外国に行ったことがない同時通訳者の方もいるくらいですから、日本国内で十分にレベルアップできます。特に、インターネットが発達している今は、英語以外でもNHKの講座が利用できるような言語であれば上級レベルにいけるんです」
―最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いできればと思います。
網野「この本でテーマにしている"動詞フォーカスメソッド"が、読者の方を英語に目覚めさせるものだと信じています。このメソッドは他の勉強法とバッティングすることもありません。今までやってきた勉強法に動詞を意識することをプラスするだけでいいんです。また流行り廃りがないので、時を経ても使えなくなることはないんですよね。なので英語だけでなく世界中の言語を身につける手掛かりとして取り入れていただけるとうれしいですね」
(取材・記事/山田洋介)
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