「奇跡のリンゴ」と呼ばれるリンゴがある。無農薬、そして無肥料という、いわゆる自然栽培によって作られたリンゴなのだが、ある日本の農家が世界で初めて成功させるまでは、リンゴの自然栽培など不可能だと言われてきた。
そんな世界初の偉業を成し遂げたのが木村秋則さんだ。青森県で農家を営んでいる。実は無農薬によるリンゴ栽培をはじめてから約10年間、リンゴと向き合うあまり、家族がいるのにも関わらず無収入が続いた。そして、失敗が続き、自殺を考えて山に入っていったのだが、その中で大きなヒントを得ることになる。
新刊『リンゴの心』(佼成出版社/刊)は、木村さんと天台宗の大僧正である荒了寛氏との対談が収録された一冊で、自然と人間の共生がテーマになって語られている。
■崖っぷちの中で見つけた"大きなヒント"
無農薬での栽培など不可能、これ以上やっても結果は同じ。家族も苦しんでいる。そんな状況にまで陥った木村さんは、ロープを持って山に入り、自殺を試みようとする。ところが、それも失敗。投げたはずのロープが枝にかからず、飛んでいってしまったのだ。
「死ねない」ということにすら情けなさを感じていた木村さんは、ロープを回収しようと山の斜面を降りていくと、そこに一本のリンゴの木を発見する。「どうしてこんなところに?」と戸惑う木村さん。実はそれはリンゴの木ではなく、「ドングリの木」だったのだが、そのときは冷静ではなかったため気づかなかったそうだ。
ここで、木村さんは土から匂いがすることに気づく。根元にあるのは養分たっぷりの土。木村さんはリンゴ畑の土と全く違うことを感じる。そこの土と、今はもう使っていない草が生え放題になっていた畑の土と同じだったのだ。
これが大きなヒントとなり、その後の無農薬栽培につながるのだが、自然のことは自然が教えてくれるのであり、自然のものは自然の中で育つものだということがよく分かるエピソードだ。
■ノウハウだけで続かない、心の教育の大切さ
そんな木村さんは現在、農家に対して自然栽培の啓発活動を行っており、本書ではそういったところから「教育」についても踏み込んで語られている。
荒氏が「幸せというものは、本来、人に分ければ分けるほど大きくなる」といい、人間は幸せになるために自分が得をすることばかり考えてしまうと苦言を呈すると、木村さんは農業に置き換えてそれを考え、技術的なノウハウだけを教えるような活動はしないと主張する。その理由は、「ノウハウだけでは長続きしないから」。
農業に取り組む姿勢や自然を慈しむ心がなければ、仮に成功できたとしても、それは中続きしない。木村さんは大きなスケールで農業について考えることを促したいといい、農業指導を行っているそうだ。
この木村さんと荒氏の対談のテーマは、農業や自然にまつわることが中心だが、実は一般的なビジネスマンや教育従事者にとっても重要なことが語られている。
人生に絶望した人間がどん底で見つけたヒントを手に這い上がる姿や、私たちを包み込む自然とは一体どういうものなのか。この2人の話を読むと、私たちが日々悩んでいることが吹き飛んでいくかも知れない。
(新刊JP編集部)
【関連記事】
・
子供全員をハーバードに入れた親の教育法とは?・
子どもの夜更かしはこんなにアブない・
あまった食べ物で"循環社会"は実現するか?・
耕さない"究極の田んぼ"を完成させた男の半生「奇跡のリンゴ」栽培者の教育論