最近、ファーストフード店やタクシーなどで、明らかに定年を過ぎたと思われる高齢者のスタッフを見かけることが増えたと思いませんか?
もちろん、彼らのなかには単純に働くことが好きだという理由で働いている人もいるのでしょうが、確かなことは"定年後は貯蓄と年金で悠々自適"がもう過去の話になりつつあるということです。
本年4月から、日本では「改正高年齢者雇用安定法」が施行され、サラリーマンは希望すれば65歳まで働くことができるようになります。
今までより長く働けるようになって経済的には万々歳。しかし、本当にそうでしょうか?
実はこの新しい制度はいくつもの問題点を抱えており、それをわかっていないと老後に大きなリスクを背負い込むことになるかもしれません。
今回は『65歳定年制の罠』(岩崎日出俊/著、ベスト新書)より、新制度の問題点をいくつか紹介します。
■「65歳定年制」の本当の姿
「65歳定年制」といっても、ほとんどの場合、現状のままで定年が5年間先延ばしになるわけではありません。
60歳の社員をそのままの形で65歳まで雇用していたのでは、雇う側である企業の総人件費ははね上がります。当然、業績や新卒採用、現役社員の賃金などに悪影響を与え、彼らのモチベーションを奪うことになりかねないのです。
そのため、多くの企業は「再雇用」という形で60歳以上の社員を受け入れることが予想されます。再雇用の場合、給与は3~4割減に、会社によっては半分以下にまで減るケースもあるようです。
■複雑になる職場の人間関係
また、再雇用された後は、職場での人間関係も難しくなります。
厚生労働省の調査によると、60歳を超えて正社員で雇用される人は全体の三分の一程度。残りは嘱託職員や契約社員として雇用されているそう。実際、多くの企業が既にグループ内に人材派遣会社をつくり、60歳を超えた社員をそこで再雇用、元の会社に派遣するということが行われています。
それによって、現場の若い社員からは年配者として尊敬されるのではなく、使えないスタッフとしてつらくあたられたり、きつい仕事を割り当てられたり、ひどい場合はそういった人たちだけを「追い出し部屋」に集めて自主退職へ追い込まれる可能性もあります。
収入の激減だけでなく、再雇用後の身分や人間関係も大きな悩みの種になりかねないのです。同じパイを分け合うのですから、同一社内でシニア×ミドル×若手の間での足の引っ張りあいや、いじめが起きることも充分、予想されます。
■さらに悲惨な中小企業
しかし、上記のような環境の変化があったとしても、これまで勤めていた会社が再雇用制度を実施できているだけまだマシ。中小企業の多くは生き残るのに必死で、そもそも再雇用制度を取り入れる余裕などないはずです。
そういった会社に勤める人たちは、60歳以降も働きたいと思ったら自分で再就職先を探さなければなりません。しかし、60歳でハローワークに通い、職を得ることの難しさは改めて説明するまでもないでしょう。
■安易に制度に乗ると65歳になったときに困る
さらにこの制度の問題は65歳になると今度は完全に放り出されるという点。平均寿命が延びた昨今、日本では半数以上の人たちが65歳以上も働きたいと考えています。しかし安易に65歳定年制度に乗ると、65歳以降も働くという道はほぼ完全に閉ざされてしまいます。50代のうちから別のコースを進み65歳以降も働ける道を確保しておいた方がいいということもありえますので、事前に情報を集め検討していくことが望まれるのです。
本書では、「65歳定年制」の本当の姿と、この制度の下で幸せに生きるための準備、その方法や考え方について詳しく解説されています。
大事なのは60歳を迎えてからではなく、60歳になる前にどんな備えができるか。
その時になって困らないように、今のうちから「老後」「定年」について考えてみてはいかがでしょうか。
(新刊JP編集部)
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