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iPS細胞が解決するかもしれない超難病

 今年、日本で最も話題となったニュースとして、京都大学の山中伸弥教授のノーベル生理学・医学賞受賞は外せません。同氏の率いる研究グループが開発した人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、あらゆる細胞に分化増殖が可能。しかし、なぜこの研究成果が世界的な評価を受けたのでしょうか。
 その理由の一つが、今のところ対処法のない数々の難病の治療に応用できる可能性があることです。

 iPS細胞によって治療法の発見が待たれる難病としてFOP(進行性骨化性線維形成症)があります。この病気は筋肉や腱、じん帯が骨に変わっていく病気で、長期間かけて徐々に骨組織が増殖して関節を固定、歩くことや呼吸も困難となり、やがて死に至ります。発症率は200万人に1人ほどですが、骨化の進行を抑える方法や治療法はまだ見つかっていません。
 『神様からの宿題』(ポプラ社/刊)は、この病気を発症した山本育海さんと、その母・智子さんによるFOPとの闘いの記録です。そこには、私たちにとっても他人事ではない、難病の現実が、二人の等身大の言葉で語られています。

 育海さんがこの病気を発症したのは2歳の時。突然首の左側がパンパンに腫れ、その影響で首が左に傾いている状態が3週間ほど続きました。その後、腫れはいったん引いたものの、首の傾きは元に戻らなかったそうです。その時はわからなかったことですが、これは重い頭を支える首に負荷がかかり骨化するという、FOP独特の初期症状だったのです。
 このように、体に負荷がかかったり傷ができたりするとその部分が骨化するため、当然小学校にあがった後も、育海さんは他の子供と同じ生活を送ることはできません。体育の授業も参加できませんし、大好きな野球もやめなければなりませんでした。

 しかし、智子さんと育海さんは諦めませんでした。二人はFOPの勉強を始め、この病気が厚生労働省に難病指定されていないために、研究班が存在しないことを知ると、『FOP難病指定を求める会』を発足して署名活動を開始しました。その活動は様々な人の協力もあり、全国に拡大。40万筆以上の署名が集まり、FOPの難病指定が実現したのです。
 そして、彼らの活動は大きな出会いを呼び寄せました。
 2009年、理研の発生・再生科学総合研究センターを訪問した育海さんは、iPS細胞の研究をしている山中教授の存在を聞かされ、同氏と面談。その結果、山中教授はiPS細胞を使ったFOPの研究に取り組むことを明言してくれたのです。

 今の医学では治療できない病気はFOPだけではありません。それらの病気が難病指定されていないばかりに研究が進まないという現実や、難病を抱えて生きるとはどういうことなのかが本書には記されています。
 山中教授の研究は難病を取りまく現状に、間違いなく一筋の希望を与えるものです。病気の原因解明や治療法の確立にはまだ時間がかかるかもしれませんが、FOPをはじめとした難病治療へのiPS細胞の可能性ははかりしれません。育海さんと智子さんは、諦めずに地道な活動をつづけたからこそ、多くの人を動かし、FOPの研究に大きな一歩をもたらしたのだといえます。

 ある日突然訪れるのが病気です。それが不治の病だった時にどう闘い、どう生きるかという問いを本書は投げかけます。それは私たち全員にとって無関係ではないのです。
(新刊JP編集部)

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iPS細胞が解決するかもしれない超難病

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