新卒大学生の就職内定率の低下がおびただしいものになっている。2011年度(2012年春卒業)は改善されたというものの、それまでは下落する一方であり、ニュース等でも内定が取れない学生たちの悲哀の声を耳にしたものだ。
この新卒採用を取り巻く厳しい状況は、これからも改善されていくのだろうか? それとも別のシナリオが待ち受けているのだろうか。
『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(光文社/刊)の著者である城繁幸さんの新刊『若者を殺すのは誰か?』(扶桑社/刊)では、若者をとりまく雇用の厳しい状況について説明しているが、城さんの見解はどのようなものなのか?
まず、このテーマを考えていくうえで、知っておかなければいけないことがある。
一つは、日本独特の「終身雇用制度」の存在であり、正社員を解雇することは容易ではないという背景。もう一つは、会社が負担できる人件費はある程度決まっているということ。それは会社の業績に応じて決まるわけだが、例えば売上が立っていないのに人件費を増やすことは不可能に近い。
その前提のうえで、城さんは、この就職難は「就職氷河期」という一時的な買い手市場ではなく、今起きているのは「新卒バブルの崩壊」だと指摘する。
先行き不安な経済状況で、企業は必死に収益を伸ばそうと努力しているが、継続して利益を出し続けるのは並大抵のことではない。そこに、バブル期に採りすぎた40代以上の社員たちが無能化し、人件費を圧迫し続けるという問題も顕在化。この状況は10年以上先まで続いていくと見られている。
さらに、海外の人材のほうが日本人を雇うよりも低い給料でパフォーマンスを出してくれるとなれば、一から育てて、なおかつ解雇しにくい新卒はどんどん苦しくなっていくだろう。
また、それに追い打ちをかけるように、2012年8月に「高年齢者雇用安定法の改正案」が与野党の賛成多数で可決・成立した。これにより、希望者は全員65歳まで雇用しなければいけなくなったのだ。事実上の「定年延長」である。
さらに、契約社員やパートの正社員登用も若者にとっては強烈な向かい風となる。
まさに新卒は八方塞がり。正社員の椅子を奪い合うレースのようになっている。
「雇用の創出」とはいっても人件費は限られており、人件費の高騰が経営のリスクとなる企業も多い。
こうした状況を打破するために、城さんは賃下げや解雇といった不利益変更のルール化が必要だとしている。新卒採用カット以外のアプローチでも雇用調整できるようになるから、新卒の就職難は緩和されることになるという考えだ。
しかし、ここにも大きな溝がある。
若者の雇用を改善しようとしても、当の政治家たちが動くとは考えられないというのだ。
日本は民主主義国家であり、有権者一人一人に投票権が与えられているが、票を獲得するために、若者たちよりも数が多い高齢者の声のほうが優先されるだろうし、若者の投票率が低いこともそれに拍車をかけている。
『若者を殺すのは誰か?』では、現代の若者がいかに不利な状況に追い込まれているのかが分かりやすく説明されている。30代と60代以上の社会保障等の世代格差はなんと6077万円にのぼるうえに、国の債務残高はいまや1000兆円に達し、その債務が新たな借金を生み出す悪循環を生んでおり、その格差はさらに広がることが容易に想像できる。
未来にあるのは絶望か、それとも希望か。近い未来の日本と私たちの姿の片鱗が、少しは見えてくるはずだ。
(新刊JP編集部)
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