読むべき本、見逃していない?

浅草橋の洋食屋の店主が撮り続けた懐かしい東京

  • 書名 東京懐かし写真帖
  • 監修・編集・著者名秋山武雄 著、読売新聞都内版編集室 編
  • 出版社名中央公論新社
  • 出版年月日2019年6月10日
  • 定価本体1100円+税
  • 判型・ページ数新書判・317ページ
  • ISBN9784121506597

 東京をテーマにした写真集はモダンなものからレトロなものまで実にいろいろある。評者はレトロが好きなので、松山巖さんが解説を書き、アマチュアカメラマンの池田信さん(1987年没)が撮った『1960年代の東京 路面電車が走る水の都の記憶』(2008年、毎日新聞社)を枕元に置き、寝付けない夜には眺めている。心が落ち着くのだ。池田さんは都立日比谷図書館(当時)に勤めていた東京都庁マンで、休日を利用して東京の街並みを撮影していた。サブタイトルにあるように、東京がまだ「水の都」だったころの面影が静謐なモノクロの画面にとらえられ、記録的な価値も大きい。今年(2019年)新装版も出たようだ。

読売新聞都民版でいまも連載

 一方、東京・浅草橋の老舗洋食店「一新亭」の店主・秋山武雄さん(82)は、15歳のころから趣味で、都内を撮影し続けている。キャリア70年。アマチュアカメラマンらでつくる写真集団「むぎ」代表でもある。

 店の仕込みが始まる前の早朝、自転車で撮影するのが日課で、撮りためたネガは数万枚に及ぶ。秋山さんの写真に読売新聞が注目、2011年12月から都民版で連載「秋山武雄の懐かし写真館」が始まり、いまも続いている。

 本書『東京懐かし写真帖』(中公新書ラクレ)は、約300回の中から選りすぐりの72本をまとめたものだ。

 「家族と浅草橋」「街角の子供たち」「身近な乗りもの」「働く人びと」「四季と年中行事」「日常生活のひとこま」「戦争の記憶」「移りゆく風景」の項目ごとに構成、おもに昭和30年代から40年代の写真150点が収められている。

江戸っ子らしい語り口調

 写真とともに江戸っ子らしい秋山さんの語り口調の文章が添えられている。読売新聞の記者が写真の見どころや思い出話を聞かせてもらい、記事にまとめた。これまでに10人の記者がかかわってきたが、みな秋山さんのファンになったという。

 いまは消えてしまったが、路地裏でベーゴマをして遊ぶ子供たち、ねんねこ袢纏を着て孫をおんぶするおじいさんたちなど、人々に向ける温かいまなざしが感じられる。

 秋山さんの写真には都電がよく登場する。日常に溶け込んだ、身近な乗り物だったからだ。その中に昭和27年(1952)から43年(1968)まで走っていた都営トロリーバスの写真があった。2本のポールを立てて架線から電気を引いたバスだ。終点はどうなっているのだろう? と疑問を持ち、川崎市を走っていたトロリーバスの終点まで行き、撮った写真が載っている。空にクモの巣がかかったように架線と電線が伸びている。

 秋山さんは「電気をどんどん使い、建物がばんばん建つ。とにかく前へ前へ、上へ上へと向かっていく時代だったんだ。短かったけれど、トロリーバスもその役を担っていたんだと思う」と書いている。

築地と豊洲の写真も

 市場の移転が話題になった築地と豊洲の写真もある。岸壁に係留した船から荷揚げされたマグロが無造作に置かれている。地方の漁師町のような光景だが、間違いなく築地だ。

 一方の豊洲は東雲にある都バスの車庫の背後にたくさんのガスタンクが見える。東京ガスの工場で、この跡地に豊洲市場が建った。土壌汚染が問題になった土地だ。そのころには、築地市場が移ってくるとは夢にも思わなかっただろう。いろいろな場所に継続的に出かけていたから、後に貴重な記録となる写真が撮れたのだろう。

 だが、撮影は挫折の連続だった、と書いている。

 「36枚撮りのフィルムを5本ほど持って撮影に行くんだけど、納得できる写真があるのは1枚ぐらい」
 「でも、たくさん撮ってきたから、東京の変化を収めることができ、『時代』を残せたとも思う。家には、まだ見ぬ写真がたくさんある。それを掘り起こすのが今の楽しみなんだ」

 読売新聞都民版の連載は毎週水曜日の掲載。先週、2019年11月13日の紙面は「渋谷」を取り上げていた。再開発で消えた東急東横線渋谷駅のカマボコ型の屋根などが写っていた。

 若い人は見知らぬ東京に出会い、年配の人は懐かしい東京に出会うだろう。秋山さんの個展で写真を見てすぐ店に飛び込み、連載を決めたという読売新聞記者の慧眼に恐れ入る。

 

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