日本の種のうち半数近くが絶滅に瀕している生物がある。水草の仲間だ。国内生育種は、亜種、変種を含めて約270種(世界では2800種)。そのうち、環境省の「レッドリスト2018」に絶滅で1種、野生絶滅で1種、絶滅危惧または準絶滅危惧で113種が掲載されている。実に43%に上る。
驚くに値する実態をさらりと紹介しているのが、本書『水草の疑問50』(成山堂書店)だ。そうした実情は「水草とはどんな生き物」「水草を手軽に屋内で育てる方法」「水草の絶景ポイントは」など、質問形式のトピックに挟み込まれている。トピックは全部で50。水草のほぼ全容が分かる。
執筆した水草保全ネットワークは、危機的な状況にある日本の水草を人口環境で保護しながら、自然再生などに役立てる目的で活動している研究者を中心にしたグループだ。監修者の田中法生さん(国立科学博物館筑波実験植物園)がグループの代表を務める。
水草は身の回りでよく見かける被子植物だが、実は特殊な進化を遂げて現存する。生物は海で生まれて陸上へ進出した。これが進化の大筋だ。それに反して、再び水中に戻った生物は例外と言える。魚竜(全て絶滅)と哺乳類のイルカやクジラ、そして水草のみだ。
水棲哺乳類と比べると、水草の特殊性が際立つ。イルカとクジラしかいない水棲哺乳類は共通祖先を持つ。このため、陸上から水中への進化は1回だけだと分かる。これに対して水草は、陸上進出の後、被子植物が裸子植物と分かれて間もなくスイレン目やイネ目などが分離、さらに双子葉類出現の後にマメ目、キク目など20を超す目で200回を超える逆の進化が起きたという。4600種近くある哺乳類で1回、被子植物35万種で200回。陸から水への進化が被子植物で、いかに頻繁に起きたかを物語る。植物は移動できないことが関係するのかもしれない。
なぜ絶滅に瀕しているのかを見る前に、水草はそもそも、どんな特徴を持っているのだろうか。
・ハスやヨシのように体半分が水上にある(抽水植物)
・ホテイアオイのように体全体を浮かべる(浮遊植物)
・スイレンのように葉や花だけを浮かべる(浮葉植物)
・クロモやセキショウメのように体全体が水中にある(沈水植物)
以上の4つに分類される。イネも水草の1種だったのだ。
それらが消えるかもしれない。ポピュラーなところではカキツバタだ。「かきつばた、衣(きぬ)に摺(す)り付け、大夫(ますらを)の、着襲(きそ)ひ猟(か)する、月は来(き)にけり」という大伴家持の歌が『万葉集』にある。『伊勢物語』などにも登場するほど、人々に親しまれてきた花だ。それが近年、環境省の準絶滅危惧種に指定された。園芸種がはびこり、自生種が激減したためだ。
絶滅の原因が人なのは、カキツバタだけにとどまらない。湿地の埋め立てによる開発や河川護岸整備、水質汚染、農業による除草剤使用、耕作放棄などによる水田の乾田化など、人の影響によるものがほとんどだ。湿地の縮小について、本書は、「1900年以降、世界の湿地の64%が消滅。国内では大正時代以降2000年までに61.1%に当たる1290平方キロ(琵琶湖の2倍)が消失した」と指摘している。
それでも、「人間の安全や食料のためには仕方がない」と思うかもしれない。そんな意見に本書は「驚異的な速さで進む生き物の絶滅」という見出しで、こんな推計値も示している。
「恐竜が生きていた時代には、1000年に1種しか絶滅していなかったのに対して、1900~1975年の調べでは1年に1種、それ以降から近年は1年に4万種もが絶滅していると言われている」。これは英国の生態学者ノーマン・マイヤーズの『沈みゆく箱舟』(岩波現代選書)での推計値を基にした指摘だ。
環境を守る視点に立つならば、待ったなし――という実情だ。具体的な行動をとらなくても、現代人は判断の背景に置いておかなければいけない問題だろう。
本書は成山堂書店が2016年にスタートさせた「みんなが知りたいシリーズ」の10冊目となる。シリーズは現在11冊で、テーマごとに、質問に専門家が回答する形式だ。全くの門外漢でも、テーマの概略と現代的な問題点が把握できるようになっている。ほかに『エネルギーと環境問題の疑問55』『洞窟の疑問30』『電波の疑問50』『空気中に浮遊する放射性物質の疑問25』『潮干狩りの疑問77』などがある。
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