テレビドラマにもなった『孤独のグルメ』の漫画家として知られる谷口ジローさん(1947~2017)。本書『谷口ジロー 描くよろこび』(平凡社、コロナ・ブックス)は漫画を文学にしたと称される「谷口ジロー」を深く知るための永久保存版だ。
繊細でドラマ性に満ちた独特の画風は海外でも人気だった。150を超える作品群は世界約20か国で今もなお翻訳され続けている。
本書は原画などを再録するとともに、ゆかりの人々が思い出や追悼文を掲載し、谷口ジローさんへの感謝と愛、オマージュが詰まった一冊となっている。扉写真にはお元気だったころの谷口さんの肖像が飾られている。柔和な眼差しだ。
鳥取県出身。京都の繊維会社に就職したが、漫画家を目指して1966年に上京、有名画家のアシスタントを経て独立した。92年に 第37回小学館漫画賞審査員特別賞(『犬を飼う』)、93年に 第12回日本漫画家協会賞優秀賞(『「坊っちゃん」の時代』)を受賞している。
谷口さんの名前を知らない人でも、『「坊っちゃん」の時代』シリーズで、98年に第2回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞していると聞けば、その実力が分かるかもしれない。同賞の第1回大賞は、藤子・F・不二雄 『ドラえもん』、第3回は浦沢直樹 『MONSTER』だ。井上雄彦 『バガボンド』は第6回の受賞。選考委員は錚々たるメンバーなので、プロの間での注目度が高かった証だ。
本書掲載の作品を見ただけで、ハードボイルドや動物もの、冒険、格闘、文芸、SFなど多彩な分野でずば抜けた描写力を持っていたことが分かる。おそらく幼少時から、絵画に秀でていたのだろう。エッチングのような細かい作画を眺めていて、ふと水木しげるさんの『総員玉砕せよ!! 他』を思い出した。
つき合いのあった多数の有名人が寄稿している。夢枕獏さんは「唯一無二の漫画家」という一文を奏している。「谷口ジローは谷口ジローというジャンルを、たった独りで描き続けてきた。亡くなってからも、それまで谷口ジローがいた場所を埋めてくれる描き手は現れていない」。夏目房之介さんは「谷口ジローはもっと評価されねばならない」という長文を寄せ、萩尾望都さんは「風景そのものが語りかけてくる」と、「すごい画力」について改めて驚嘆している。
冒頭にも書いたように、日本の漫画家の中では海外で高く評価されてきたのが谷口さんだった。2000年代に入ると、ほとんど毎年のように、ヨーロッパの国際漫画展や漫画祭で何らかの賞を受賞している。11年にはフランス政府芸術文化勲章シュヴァリエ章を受章している。
本書では、フランスのアニメ映画研究者のイラン・グェンさんが海外から見た谷口評を書いている。文化大国のフランスが日本の漫画に対して「最初に価値を見出したのは谷口ジロー作品」であり、「後に他の日本人の作家のための道も開いた」と谷口さんの貢献ぶりを伝えている。
本書には詳細な年譜や仕事場の写真も掲載されている。特別付録として幻のデビュー作「声にならない鳥のこえ」が単行本初収録されている。ファンにとってはたまらないだろう。
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