大阪府知事や大阪市長を歴任した橋下徹さんが新著『政権奪取論 強い野党の作り方』(朝日新聞出版)を出した。人気を反映してか、あっという間にネットでは多数のコメントが付いている。総じてきわめて評価が高い。
橋下さんは「維新の会」を立ち上げ、挑戦的攻撃的な弁舌で知られた。政界の風雲児として活躍してきた派手なイメージが付きまとうが、本書では想像以上に冷静に野党に対し処方箋を示している。そのあたりの意外性も高評価につながっているのだろう。
冒頭で橋下さんは、「僕は今の安倍政権の政治に基本的に賛成である」と明言する。それは政策の中身というよりも実行力の点である、と記す。もちろん反対のところ、不満のところも多々ある、と釘を刺すことも忘れない。特に森友・加計など国会で問題になった案件については「強く怒っている」。
いろいろ批判されることも多い安倍政権だが、ある程度以上の支持率を誇る。世論調査などでは、積極的支持というよりは、「他に適当な人がいない」、要するに野党が弱いために安倍政権は安定を失わない。したがって与党に緊張感を与える野党が必要、というのが本書を書く橋下さんの基本的なスタンスだ。
安倍政権の実行力については、興味深い指摘をしている。「マーケティング力」に秀でているというのだ。「自分の政治的信念・信情に固執することなく、有権者の意向をよく汲んで、政策に反映させている」と見る。
たとえば憲法9条の改正。本来は9条2項を削除して、日本は完全な軍事力を持つべきだというのが安倍首相の考えだが、それでは有権者に受け入れられないと察し、自衛隊を合憲化する規定のみを置くという改正案。慰安婦問題に関する日韓合意では河野談話を引き継ぎ、靖国神社には一度行ったきり。農家を守ると言いながら、農家をある程度犠牲にしてTPPなどの自由貿易を推進するなど、「自民党の支持者を騙しながらでも現実の課題に対応し、有権者全体の利益をはかっている」と指摘する。
さらにいえば、「経済界に労働者の賃上げを要請したり、同一労働同一賃金や残業規制を導入したり、幼児教育や高等教育を無償化したりする政策は、旧民主党・旧民進党時代から野党が主張していたこと、これによって野党の支持層まで取り込もうとしている」。
全体は6章に分かれている。「このままでいいのか、日本の政治」、「正しいポピュリズムこそ民主主義」、「『マーケティング』で有権者をつかむ」、「『風』は地方から起こす」、「 政策より『組織』が大事だ! 」、「日本の新しい道」。
このなかから、野党への注文を拾うと、「野党は尋問の技術を学べ」、「今の野党が国民からそっぽを向かれる理由」、「自民党政治の『融通無碍』を見習え」、「何でも反対では前に進まない」、「野党には国民目線が足りない」などなど。
有権者の望みを「マーケティング」して政策を磨き、地方から「変えられる」実力を示して信頼を勝ち取り、意見は多様でも最後はきちんと「決める」強固な組織をつくる。そうしておかなければ、「風」すら吹かない、と本書は強調する。
特に面白いと思ったのは、「日本の新しい道」の章だ。いくつかの提案をしているが、その中でも持論の「戸籍制度は撤廃し、マイナンバーで情報管理」はインパクトがある。是非は別にして、これぐらいの衝撃を与える政策を出さないと、野党は対立軸をつくれないのかもしれないと思った。野党候補の調整についても言及し、2019年の参院選では「野党間に予備選挙の導入を」と提案している。
橋下さんはたしか、朝日新聞出版とは「週刊朝日」の記事を巡って大騒動があったはずだ。ところが本書は朝日新聞出版の刊行。橋下さんも朝日新聞出版も、そのあたりにはもはやこだわらないということか。野党が学ぶべきことを言外に示しているのかもしれない。
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