本書『正しい女たち』(文藝春秋)は、千早茜の短篇集。セックス、結婚と離婚、プライド、老い。女性なら誰もが気になるテーマについて、1つの正しい姿が提示されている。収録された「温室の友情」「海辺の先生」「偽物のセックス」「幸福な離婚」「桃のプライド」「描かれた若さ」の6つは、2016、17年の「週刊文春」「オール讀物」「小説BOC 3」掲載作品と書き下ろし作品。
「幸福な離婚」は、10年以上の結婚生活にピリオドを打つことを決めた、わたしとイツキが描かれている。「生活の底にいつも怒りがくすぶって」「泣いたり罵りあったりの日々」だったが、離婚届を提出する時期を春にして、二人は残された数か月間を楽しむことにする。
「別れることが決まった途端、イツキとのありふれた日常は脱皮するようにまあたらしいものになった」「いがみあっていたときには伝わらなかった痛みが、今はたやすく伝わる。お互い、自分よりも相手を見ているからだろう」。それまでの不仲が嘘だったかのように、別れを約束した二人は、穏やかで幸福な時間を分かち合う。別れというゴールを設定せず、ひたすら続いていく日々の暮らしの中で、そんな関係を築くことができたら...。
「描かれた若さ」は、「婚約指輪の代わりに肖像画が欲しいの」と婚約者の紗耶香に言われ、画家が住んでいる廃校に通う俺が描かれている。通された教室には、画家らしき人物は現れず、代わりに20人以上の女子高生がいた。彼女たちは俺を見て「オヤジ」と嘲笑う。しかし、描き始めると「無数の目を持つ一塊」になった。途中で耐えきれず逃げ出した俺のもとに、白髪の老女がやってくる。紗耶香が俺の肖像画を欲しいと言った経緯が、老女の口から明かされる。
俺が紗耶香を選んだ理由は、「付き合った中で一番若くてスタイルがいい」から。「女はみんなこの『ババア』という言葉に怯え、傷つく。娯しい」。女に対する俺のこうした侮辱的な価値観や言動が、そのまま自身にふりかかってくる。男も女も、その価値は年齢ではかれるものではない。特に女性の読者にとっては、大変スッキリした結末が待っている。
著者の千早茜は、1979年北海道生まれ。幼少期をザンビアで過ごす。当時、日本から届いた本を貪るように読んでいたという。2008年、小説すばる新人賞を受賞した『魚神』でデビュー。09年同作で泉鏡花文学賞を受賞。BOOKウォッチで紹介した『あとかた』(新潮社)は、13年に島清恋愛文学賞を受賞、直木賞候補。翌年、同じく直木賞候補となった『男ともだち』をはじめ、著書多数。
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