この夏は異例の猛暑続きでビール各社は、予想外の特需に増産体制に入っているという。ビール党にとっては熱帯夜続きも味わいが増す演出といったところか。今では、ビールの種類も増え、ビール類ばかりか、いわゆるノンアルも多彩。飲んでいっそう染みる夏は、読んでもビールを極めるには絶好の季節といえそう。参考書には本書『カラー版 ビールの科学 麦芽とホップが生み出す「旨さ」の秘密』(講談社)が最適だ。
著書の渡淳二さんは、京都大学農学部卒業後にサッポロビールに入社。途中、東京大学農学部、フィンランド国立技術研究所などで醸造とビールを学ぶなどビール一筋の道を歩んできた。その後サッポロビール取締役などを経て、現在はサッポロホールディングス顧問。本書は2009年に刊行されロングセラーとなった「ビールの科学」を原型に、全面的に加筆・修正して最新情報を盛り込みフルカラー化したもので、渡さんは「『ビール学』の集大成として書いたつもり」と述べている。
ビールにとってはこれから「大変革の時代」が訪れようとしており、今年4月にあった酒税法の改正によりその緒に就いたという。著者にとっては、そのことが「ビールの科学」をバージョンアップした大きな動機のようだ。
同改正では、発泡酒や新ジャンルを含むビール類の定義が大きく見直されることになった。ビールの定義である「麦芽比率67%以上」は「50%以上」に引き下げられ、あらたな副原料として果実や香味料を一定量用いてよいことになった。副原料の例とし挙げられているのは、コリアンダー、こしょう、シナモン、さんしょう、カモミールその他のハーブ、野菜、ごま、牡蠣、こんぶ、かつお節など。各社からすでに、これらの副原料を用いた新商品が発売されている。
ビールの麦芽使用比率の定義が改められたのは1908年(明治41年)以来110年ぶり。変化する消費者のし好を追求した商品や、国際的に競争力を発揮できる商品の開発を促すなどの期待が込められたもので、近年ブームになっているクラフトビールにも強力な追い風になるとみられている。また、この酒税法改正では、2026年にかけて3段階にわけ、ビール、発泡酒、新ジャンルの酒税を一本化することを決定。この措置によってビールの税率は下がるので、ビール党にとっては歓迎すべき動きなのだが、とくに生産サイドの関係者にはとくに「大変革の時代」ととらえられている。
猛暑で増した味わいを満喫しているビール党にはにわかに信じられないかもしれないが、近年のビール消費量は減る一方。発泡酒が登場した1994年をピークに下り坂となり、その動きが止まる気配はない。少子高齢化や団塊世代のリタイアなどによる飲酒人口の減少基調はあるものの、著者らが気にしているのは、若者のビール離れ、アルコール離れだ。しかも、それは世界的な傾向という。
その原因はどうやら、ビールの最大の特徴である「苦味」にあるらしい。「ビールの歴史は長く、伝統あるアルコール飲料。その最大の特徴であるホップの『苦味』に対する若者の反応は、必ずしもポジティブなものではないよう。むしろ「ビールは苦いからイヤだ」という若年層もかなり多くいると推測されている」という。
ビール好きのお父さん世代の子どものころと違って現代では、甘い飲料が多種多様で豊富にあり、若者たちは小さいころからジュースに慣れ親しんでいる。食事のときでも、かつてのお茶代わりに甘い飲料が食卓にあるのが普通で、そうしたことがドリンクをめぐるカルチャーに影響。成長してからの酒を飲む席でも、苦いビールよりチューハイやリキュールなどの甘いメニューを選ぶ傾向が強まっている。
本書によれば、苦味離れも世界的潮流で、ビールの本場ドイツでも「ラドラー」と呼ばれるビールのレモネード割りや、「ビアミックス」というビールと果汁を合わせた飲み物を若者が好んで飲んでいるという。
大変革の時代の幕開けにまず、ビールはその定義が変更され、新たに副原料として多彩な食材が使えるようになった。ビールやビール類の「のど打つ爽快さ」は、他の種類では代替えしにくい独自の特性であり、これを生かしたうえで、トレンドに乗る味づくりがうまくいけば、本来の多様なビール文化の復権につながると著者はみている。
本書ではほかに、5000年に及ぶビールの歴史、コクとキレの秘密、鮮度の保ち方、「決定版!」と銘打った注ぎ方や、料理とのハーモニーの楽しみ方などまで、「ビール学の集大成」にふさわしく盛りだくさん。猛暑をビールで乗り切りたいと考えている方にはぜひ。
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