「幼なじみ」というキーワードで、日本の古典、近代文学からライトノベル、マンガ、スマホゲームまで言及した学術エッセイが、本書『幼なじみ萌え』(幻冬舎)だ。
発行は「京都造形芸術大学 東北芸術工科大学 出版局 藝術学舎」で、著者の玉井建也さんは、東北芸術工科大学芸術学部文芸学科専任講師(歴史学、エンターテインメント文化研究)。同大学のすでに卒業した学生のアイデアから生まれた本だという。
幼なじみに関する作品で古典的とされるのは『伊勢物語』などに収められている「筒井筒」で、近代文学では『幼なじみ』(1889年)というタイトルで小説を書いた欠伸居士(思想家堺利彦の実兄)がいるそうだ。話はそこから五木寛之の大河小説『青春の門』(2018年現在も連載中)に飛び、主人公の伊吹信介と幼なじみの牧織江の「お互いにわかり合えているが、わかりすぎている関係性」について論じる。
ここからラブコメ要素を物語に取り込んだ少女マンガ(『おくさまは18歳』、『タッチ』)などを論じているうちに、「幼なじみ」を離れてメディアミックス論、上京をめぐる物語など縦横に話題は広がる。
中でも興味深かったのは、東京と地方の文化的な違いだ。著者はいま山形市にある大学で教えているが、「地方に住むと何かを行うだけで労力を必要とする」そうだ。「ショッピングモール一つできたところで、文化的に均一になるのかというと分野次第では飢餓感だけが加速するのである」という。
実は「幼なじみ」という概念にはかなりの温度差があること、たとえば東北地方の場合、地方から都市に進学する場合、仙台か東京に集中するので地縁的な連係は途切れにくいが、中国・四国地方の場合、東京、京都、大阪、岡山、広島、福岡、県内と分散し、多層性があるという。「要は幼なじみを当然と考えるか、そんなのは地縁的関係性がずたずたに切られることが前提のライフコースなので不自然と考えるのかの違いが出てくる」と指摘する。
NHKの朝の連続ドラマ「半分、青い。」も岐阜から東京に出てきた「幼なじみ」の物語だ。二人は手痛く別れたばかりだが、どうなるのか? ラブコメ的な展開を迎えるかシリアスな結末になるのか、など「幼なじみ」は物語のつかみとして手っ取り早い(NHKの朝の連続ドラマにおける「「幼なじみ」比率は相当に高い)。
引用はマンガ図版を含めて豊富で楽しめるし、文献の出典も明記しているので、さらに勉強したい人には参考になる。いわゆる「オタク」本の妙なこだわりもなく、学術書に付き物の不自然な理論化もない。冒頭で「学術エッセイ」と紹介したのは、そんな読みやすくタメになる本だからだ。
東北芸術工科大では学生たちが書いた『19歳のポルノグラフィ』(幻冬舎)も話題になっている。
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