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ホーキング博士の言葉に導かれ難病に挑む道歩む

KEEP MOVING 限界を作らない生き方

 2018年3月に76歳で亡くなった英理論物理学者、スティーヴン・ホーキング博士は20代の学生のときに「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」と診断され、後の研究生活では「車いすの物理学者」として知られていた。6月15日には、ロンドンのウェストミンスタースト寺院で追悼礼拝が行われる。

 本書『KEEP MOVING 限界を作らない生き方』(誠文堂新光社)のとびらを開くと目にするのはホーキング博士に言葉の引用。「人生はできることに集中すること」とある。著者の武藤将胤さんは4前に、ALSと診断され、博士の言葉を拠りどころに毎日挑戦を続けているという。本書はその手記。

世界で約35万人、日本国内に約1万人

 ALSは、体を動かす運動神経が変性し徐々に壊れてしまう疾患。身体じゅうの筋肉が少しずつ動かなくなり、声を出すこと、食べ物を飲み込むことなども困難になり、やがて呼吸機能も侵されるという。世界で約35万人、日本国内には約1万人の患者がいるとされるが、原因ははっきりせず、有効な治療法も見つかっていない。

 一般的には50~70代で発症するケースが多いのだが、1986年生まれの著者が身体の異変に気づいたのは20代後半の2013年。ホーキング博士と同じように、20代での発症は稀なのだという。著者は「発症してからの平均寿命が3~5年という厳しいデータもある」と紹介しているが、ホーキング博士のように途中で進行が急に弱まり発症から50年以上にわたり研究活動を続けた例もある。

 著者が自分の健康状態に変調を感じ、やがてALSと診断されたのは、勤務していた広告会社で「仕事が面白くてたまらなかった」ころ。また、発症、診断、闘病開始――という病気の進行段階のそれぞれと、妻である木綿子(ゆうこ)さんとの出会い、結婚が前後するめぐり合わせがあり「『絶望』なんて言葉ではとうてい言い表せない」情況のなかをさまよっていたという。だが、木綿子さんの献身的支援もあって病気に向かい自らを奮い立たせる。本書には木綿子さんの手記も添えられている。

 著者の症状は日々進行しており、毎朝、起床後にまずすることは「昨夜まで動いていた部位がまだ動くかを確認する」ことだ。米ロサンゼルス生まれの影響か、自室にDJブースを設けるほど音楽好き、自転車での探検が趣味だったが、DJプレーはできなくなり、愛用のマウンテンバイクにも乗れなくなった。シャツのボタンを留められなくなり、好きな洋服も次々に着られなくなっている。

テクノロジーで不自由を補う

 楽しみや好きなものを奪われるなかで、その立場だからこそ伝えられることがあると考えの整理が進む。自分と同じような日常に寂しさ不安、ストレスを抱えながら発信できず悶々をしている人も少なくないはず。そうした状況を変えていく活動ができるのではないか。いまは、闘病の一方、患者や家族らの、いわゆる「クオリティ・オブ・ライフ(QOL)」向上の団体「WITH ALS」を立ち上げ、活動に努めている。

 進行する不自由さを補い「限界を作らない」ために、現代ならではの新しい試みとして著者が重視しているのはテクノロジーの活用。支援なしでは購入が困難な高性能の次世代型電動車いすの「カ―シェア」事業や、目の動きだけで電子器を操作できるメガネ型のウエアラブル機器開発などでメーカーとのコラボレーションを始めている。著者は、事業に導入した車いすを使うようになってからどこへでも一人で行けるようになったという。

 著者は「2018年4月―朝の日課」として、本書刊行直前の近況に触れている。「朝の身の回りの世話に関しては、全面的にヘルパーさんにお願いしている。ALSという難病と共に生きるには、プライバシーの尊重など言っていられない。すべてを他人にさらして生きていかなければならない」。午前中は病院で薬の投与とリハビリ。そして、例の車いすで仕事場に向かい夜遅くまで業務をこなす。「重度障害者の身だというのに、相変わらずワーカホリックぎみだ。仕事をすること、自分にやるべきことがあることが、僕の生きがいにもなっている」という。

 とびらを開いて引用されているホーキング博士の言葉は「人生は、できることに集中することであり、できないことを悔やむことではない」というもの。本書を読み終えると、この引用が冒頭に置かれたことが分かる気がする。

  • 書名 KEEP MOVING 限界を作らない生き方
  • サブタイトル27歳で難病ALSになった僕が挑戦し続ける理由
  • 監修・編集・著者名武藤将胤
  • 出版社名誠文堂新光社
  • 出版年月日2018年6月 6日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数B6判・238ページ
  • ISBN9784416618394

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