京都を旅するとき、大半の人は新幹線を利用するだろう。よく見かける「そうだ 京都、行こう。」というキャッチコピーも、そもそもは東海道新幹線を運営するJR東海のキャンペーンだ。
本書『京へと続く街道あるき』(淡交社)は、そうした鉄路旅行とは一線を画す。むかしの旅人はどのような道を通って京都入りしたか、それらの道は今どのように生き残っているか。地べたを通して改めて体験しようという本だ。
本書で紹介されているのは、東海道、中山道、京街道(大坂街道)、西国街道、鳥羽街道、伏見海道、竹田街道、「山背古道」と大和(奈良)街道、宇治街道、若狭街道、鞍馬街道、山陰街道、山中越(志賀越)街道、長坂越の14の旧街道だ。今は大半が国道や府道に名前を変えている。いくつかの名前は聞いたことがあるが、実際には歩いたことがないという人がほとんどではないか。
全体は、「京に通じた幹線街道」「古都を結んだいにしえの街道」「都を支えた支線街道」に分けられ、それぞれに数か所ずつの街道が登場する。一街道について6~8ページ、豊富な写真や地図、立ち寄りたい場所などの解説、実際に歩いた場合の所要時間などが示されている。
補足説明として「京へと続く交通網の変遷」が載っている。全国から京へと至る道は律令制の古代時代から設けられ、途中の駅ごとに20頭の駅馬が置かれていたという。当初は九州・大宰府に通じる大路がメインルートだったが、東国で武士の力が強まると、東海・東海道が重視されるようになる。室町時代以降は全国規模で産品の流通が盛んになり、運送・倉庫業者の動きが活発になって道も再編される。日本海側の若狭の海産物を京都にもたらす若狭街道は、「鯖街道」の別名でも知られるが、その京都側の終点、出町柳の市場には日本海からの海産物が並んでにぎわったという。
ローマ帝国全盛だったころ、「すべての道はローマに通ず」といわれたそうだが、京都につながる多数の道を眺めていると、平安時代以来、長く日本の中心だった京都の威力を再認識せざるを得ない。中山道は大きな川がなく、安定した旅程で旅ができたので、女性に好まれたという。そういえば、京都から江戸へ、一か月がかりで14代将軍徳川家茂のところに嫁いだ皇女和宮も、中山道をたどったと記憶する。
著者の竹内康之さんは『いにしえをめぐる 奈良の山歩き里あるき 大和路のとっておきトレッキングコース18』『「琵琶湖」の絶景を望む 近江の山歩き16選』などの著書もある地元通。出版元はいずれも本書と同じく、茶道関係の出版物で定評がある京都の淡交社。
本書で紹介されている街道は、それぞれを部分的に歩くだけでも、街道歩きの気分が味わえる。近畿圏に住む人ならもちろんのこと、京都に行き慣れているという圏外の京都好きにとっても役立ちそうだ。たまには新幹線ではなく、タイムスリップして昔の旅人気分を楽しむための手引きとして利用できる。
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