大学生の就職状況が空前の好況だ。就職内定率が9割だとか。リーマンショック直後の就職氷河期などとは雲泥の差だ。
しかしながら、芸術系の学部はちょっと違うらしい。東京芸大の卒業生の半分が消息不明だというようなことが2年ほど前、メディアで話題になった。アート系の学生には働き口が少ないということなのか、それともやりたいことがあるから、目先の就職にこだわらないということなのか...。
本書『大学では教えてくれない音大・美大卒業生のためのフリーランスの教科書』(ヤマハミュージックメディア)は、その東京芸大の卒業生で、国立音大副学長の久保田慶一さんが、大学を出て、どこにも就職せず、フリーで社会人をスタートするような若者向けにノウハウを解説した本だ。世の中には「起業」に関する本があふれているが、フリーランスについての本は少ない。特に、芸大系では、学生からいきなりフリーを志す本が少なくないことから、ガイド本が必要だと思ったという。
本書の前半ではフリーランスとはどういう働き方なのか、キャリア・デザインをどうするかなどの説明が続く。世の中にフリーランスで働いている人は何人ぐらいいるのか? フリーターとはどこが違うのか? 派遣社員、アルバイト、ニートとの違いは? などの基礎的な案内が主だ。
後段ではフリーランスのリスク、心構え、準備するべきことなどが語られる。企画の方法、人脈づくりのほか、クラウドファウンディングなどの資金調達法なども紹介されている。著者はあくまで大学で学生を預かる側であり、自身が実際にはフリーで仕事をしていたわけではないので、どちらかといえば常識的な説明となっている。
出版や広告、インターネットの世界では多数のフリーがいる。美術系の人もいるが、恵まれている人はごくわずか。自分で事務所を構えられるようになっても大変だ。正直なところ、学生からいきなりフリーになって成功する確率は限りなくゼロに近いのではないかと思う。
よほどの実力や能力がない限り、まずは地道に実力をつけてから考えたほうがいいですよ、と業界関係者の大多数はアドバイスするのではないだろうか。個人のクリエーター志向ならまだしも、映画、演劇業界、展覧会、コンサートの運営などはさらに難しい。多数の人をコーディネートし、お金の管理にも習熟する必要がある。業務は多岐にわたり、トラブルも多発、何よりも経験と信用が重視される。楽しそうに見えるが、学生時代の少々の勉強やトレーニングでこなせるほど簡単な仕事ではない。
フリーランスの語源は、中世の槍騎兵にさかのぼるそうだ。「ランス」とは、「槍」のことで、「ランサー」とは「槍騎兵」のこと。どこの騎兵団にも所属せず、単独で国王や領主に雇われる槍騎兵が「フリーランサー」と呼ばれたという。
いわゆる「傭兵」。当然ながら相当の戦闘能力がないと、雇ってもらえない。「フリーランス」の語源を知れば知るほど、ゼロからスタートできるような甘い世界ではないということを再確認させられる。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?