「永遠の青二才」と自称し、なぜ氏が芥川賞を受賞しなかったのかが昭和文学史の謎の一つとされる作家島田雅彦氏が、コンパクトに日本文学のエッセンスをまとめたのが本書『深読み日本文学』(集英社インターナショナル新書)である。
10章で日本文学史を叙述するという力業だが、法政大学国際文化学部教授でもある氏なので実にポイントをよく押さえている。「色好みの日本人」というタイトルの第1章で「源氏物語」を取り上げ、第2章では「ヘタレの愉楽 江戸文学再評価」として、井原西鶴、近松門左衛門の作品を紹介している。
第3章以下で夏目漱石に始まる近代文学、現代文学を解説しているが、面白いのは教科書にも取り上げられることの多い『こころ』をテキストに「創造的誤読」を勧めていることだ。「先生」がKという友人が自殺したことを「私」に宛てた手紙で告白した内容の有名な作品で、Kは誰だったかを含め、これまでさまざまな解釈がされてきたが、島田氏は「先生はゲイだった」そして「先生は<私>にも恋愛感情を抱いていた」という解釈を提示した。もしそうなら教科書に取り上げられる訳もないのだが、「深読み」とタイトルに銘打っただけに豊饒な可能性を示唆している。
同様の手法で樋口一葉、谷崎潤一郎らを取り上げているが、本書の最大の読みどころは第8章「小説と場所 遊歩者たちの目」の項だ。近代文学に限らず、現代文学、そして現在の作品にいたるまで、なぜ小説の舞台は東京であることが多いのか。もちろん、関西、九州を含め地方が舞台の作品もあるのだが、圧倒的に東京が多いことに誰も疑問を持たないほどになっている。島田氏は「文学が資本主義と無縁ではない」として、よそ者たちが地方から東京に集まり、東京を遊歩することによって物語が推進すると分析している。「主人公が歩き続ける限り、物語は終わらない」のだ。
あとがきに書かれたことばが読む者に勇気を与えてくれる。非道な時代ほど文学は必要とされ、「バラ色の未来が期待できない今日、忘れられた文学を繙き、その内奥に刻まれた文豪たちのメッセージを深読みすれば、怖いものなどなくなる」と。作家高橋源一郎氏が本の帯に寄せた「『日本文学史』の最新・最強バージョン」という推薦のことばも納得できる。新書なのですいすい読めてすいすい分かる手ごろな日本文学の入門書だ。
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