「おひとりさま」の造語で知られる社会学者の上野千鶴子さん(69)と、多数の宗教関連本で知られる元国際日本文化センター所長・山折哲雄さん(86)。本書『おひとりさまvs.ひとりの哲学』は、あちこちで引っ張りだこの二人による対談である。
上野さんは長く京都精華大学で教えていた。山折さんが所長当時、京都郊外にある日文研にはよく顔を出したという。井上章一さんらも交えて、談論風発の楽しい時間。本書もその延長線上にある。旧知の二人がざっくばらんに「老後」や「死」について語り合った本だ。
2007年、上野さんの『おひとりさまの老後』は75万部のベストセラーになって、高齢化社会が直面する老後問題をあぶりだした。日本では非婚女性や独り暮らしの女性が増え、やがて彼女らは老年に達する。男性よりも女性の方が長生きだから、結婚していても、「おひとりさま」は多くの女性が直面する問題でもある。ひとりで安心して老い、心おきなく死ぬにはどうすればいいか。同書でそのノウハウを、住まいやお金などの現実的な問題から心構えや覚悟にいたるまで考察した。現在は文春文庫に収められている。
山折さんは以前から、「ひとり」に関心を持っていた。宗教学者だから当然だろう。人は一人で生まれてきて一人で死ぬ。どんなに社会的に大きな存在になって活躍しても、最後は一人だ。それは、人が宗教に近づく大きなきっかけにもなる。上野さんの「おひとりさま」ブームに引きずられる形で、山折さんも、『ひとり達人のススメ』『「ひとり」の哲学』などを出している。
本書では、「 思想としての『ひとり』」「死にゆく人はさみしいもんや」「『個』と『ひとり』」など6章にわたって、話が繰り広げられる。おおむね上野さんの問いかけに山折さんが答えるというスタイルだ。即答できるものもあれば、考える時間が必要な問いもある。その生のやりとりが面白い。
上野さんは正真正銘の独居高齢者。山折さんは妻も子どももいる。したがって、上野さんから見ると、「ニセおひとりさま」。しかしながら宗門に生まれて僧籍もあるから、普通の人ではない。二人の共通点は、ファンが多いということだろう。
新宿の朝日カルチャーセンターで上野さんの講座を聞いたことがあるが、会場はぎっしり。何よりも驚いたのは、上野さんが克明なレジメを作っており、それが参加者に配られたことだった。この人は非常に綿密に仕事をする人だということを知った。
山折さんの講演も聴いたことがある。広い会場には1000人を超える聴衆が詰めかけていた。山折さんは独特の名調子で、緩急を交え、飽きさせない。学者の講演というよりは、まさに達意の宗教者の法話であり、御利益を感じた。
本書は、そうした二人の対談なので、木戸銭を払ってトークショーを聞いたと思えば安い本代だ。
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