美少女ＡＶメーカーの宇宙企画や、『デラべっぴん』など多くの美少女ヌード雑誌を発行した英知出版を経営し、1980年代に日本を代表する新しいエロ文化を花開かせた伝説の男・山崎紀雄が『裸の巨人』（双葉社）の主人公。時はバブル。誰もが自分の欲望を丸出しにすることを躊躇しなかったか時代、質の高いエロにこだわった山崎の作品たちは売れに売れた。全盛時代には毎月三億円ずつ儲かったという。
豪邸を建て、ホテルのスイートに住み続け、世界的名画を次々と所有していった。人呼んで「日本のヒュー・ヘフナー」。かの『PLAYBOY』誌を創刊して巨万の富を築き、何人もの美女と浮名を流した稀代のプレイボーイと並び称されたその男が、本書でその半生を初めて公にした。
山崎の作った宇宙企画と英知出版には数々の伝説がある。宇宙企画では、ビデオ出演する美少女を探すため社員たちには経費で風俗店通いを奨励していた、AVの撮影に映画並みの撮影時間と費用をかけていた、高級ブランドの生地で女優に着せるセーラー服をわざわざ作らせた......。英知出版では、国会図書館に所蔵されるエロ本がある、素肌の肌色の質感を出すために製版にこだわり続けて印刷技術の進歩に貢献した......枚挙に暇がないほどだ。それを自ら現場で指揮したのが山崎だった。
どの伝説にも共通するのは、いいものを作るためにはカネと時間を惜しまなかったということだろう。そしてそんな場所には多くの才能も集まった。だからこそ、宇宙企画や英知出版の作品はファンの熱い支持を受け、それまでの淫靡な成人雑誌とは違うエロ文化が生まれたともいえる。文化を創り出すためには、カネと時間と才能が必須だからだ。
しかし、この半生記を著したライターの前に姿を現した"美少女エロの巨人"は、古希を目前にした今、6畳一間に1人で住み、電車賃に困ることもあるという生活の中で一心不乱に絵を描き、目の前の塩むすびを大事そうに食べている。なぜあの大富豪はこんな生活をしているのか――？
山崎の栄光の時代はバブル崩壊とともに崩れ始める。時代の潮目が変わったのだ。ヘアヌードのなし崩し的解禁や、インターネットの普及により、エロは特別なものではなくなってきた。山崎が警察や国税に目をつけられたのもその頃だ。看板雑誌が発禁処分になりコンビニから撤退、国税の調査で申告漏れを指摘され巨額の追徴課税を命じられる。
会社が傾き始めてもカネを惜しまず美を追求する山崎のスタンスは変わらない。絵画や土地を売って資金を作り、絶頂期の女優・松坂慶子など熟女写真集で起死回生を図った。これが大当たりする。だが、傾き始めた会社の危機を乗り越えることはできなかった。芸術肌で、いいものを作るためならカネには無頓着だった山崎が、すべてを失うまでに長い時間はかからなかった。
そんな"裸の巨人"のジェットコースターのような半生を丹念な取材で描いた本書は、自由でメチャクチャだったバブル時代の雰囲気を伝える貴重な記録としても楽しめる。
著者の阿久真子さんはペンネームのようだ。悪魔の子ということか。他に同じ名前での著書は見当たらない。（BOOKウォッチ編集部 スズ）
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