沖縄の歴史に題材をとりながら破天荒なエンターテインメント作品を発表してきた池上永一の新作だ。「鉄の暴風」と比喩された沖縄戦で九死に一生を得た美少女・知花煉(ちばなれん)はマブイ(魂)を落としてしまうが、さまざまな商いをしながら基地の街でしたたかに生きていく。しかし米陸軍CIC(対敵諜報部隊)に追われ、身分を偽り、南米・ボリビアに移民として渡る。
戦前から沖縄はハワイなどへの移民がいたが、戦後は南米各地に移民を多く輩出している。著者はそうした移民の歴史を下敷きに、ヒロインにさまざまな辛苦を与える。煉は開墾地で原因不明の熱病から死線をさまよい、マブイが復活する。チェ・ゲバラとの恋、キューバ革命、キューバ危機など南米の現代史を舞台にストーリーが展開する。
評者の豊崎由美氏(書評家)は「魂だけの存在になった煉と実態を有する煉の反目を巧みに操作することで、ヒロインに2倍の経験をさせ、世界の有事を救うほどの冒険を可能にさせる」というマジック・リアリズムのような叙述で読者を引き込む。
ジェットコースターのように成功と失敗を繰り返すが、成功者となった煉は、娘とともに日本に復帰した沖縄に錦を飾るべく里帰りする。しかしふるさとの村は基地の中にあり、立ち入り禁止となっていた。彼女の戦争は終わっていなかったのだ。
マブイという沖縄独特の信仰がうまく作品に生かされている。マブイを落としても人間は生きていくし、マブイも存在する。エンターテインメントでありながら、哲学的な命題がずっと底を流れている。
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