東大寺がイスラム教と関係があるというと、たいがいの人は「へぇー」と驚くのではないか。もちろん教義面で関係があるわけではない。寺のトップである別当(管長)も務めた長老、森本公誠さんが、実はイスラムの研究者なのだ。
『初期イスラム時代エジプト税制史の研究』(岩波書店、日経・経済図書文化賞)、『イブン・ハルドゥーン』(講談社学術文庫)など、何冊ものイスラム関係の本を出している。
最新刊は『イスラム帝国夜話』(岩波書店)だ。10世紀、アッバース帝国の首都バグダードで記された逸話の数々を紹介する。登場人物はカリフ(最高指導者)や宰相から、商人や歌姫などの市井の人びと、さらにはた犬や猿まで多彩だ。それぞれにまつわる英智と狡知、驚きと笑いあふれる多数のエピソードを通して、繁栄を極めたイスラム社会のありさまを生き生きと映し出す。アラビアンナイトにも影響を与えた、イスラム世界最古の逸話集の全訳だ。上下巻で約660の話が収められている。
1934年生まれの森本さんは15歳で東大寺に入り、違う視点から仏教を見つめてみようと京都大学でイスラムを研究。エジプト・カイロ大学にも留学した。その後、母校でイスラム史の講師なども務めたが、その時のテキストが本書だった。「人間の本質を掘り下げた本ではないか」という。(2017年7月30日の朝日新聞「ひと」欄)
たしかに日本でも、中世の「今昔物語」「宇治拾遺物語」などを読んでいると、突拍子もない話が出てきて、腰を抜かしそうになることがある。本当にそんな話があったのか、どうしてこんな話を採録したのか。説話を採集した人は、人間のバカバカしさを後世に伝えるために、こんな本を残したのではないかと思ってしまうほどだ。
森本さんがこの本に惹かれたのも、おそらくは時代や国、宗教を超えた「人間の性(さが)」が記されていると感じたからだろう。日本からは縁遠く思えるイスラム社会だが、本書を一読すれば、そこに生きる人々は、実は我々と違わないことを納得できるかもしれない。
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