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「人間の性(さが)」を後世に伝える 東大寺長老が訳した『イスラム帝国夜話』

書評掲載元:朝日新聞「ひと」欄 7月30日付

イスラム帝国夜話 上・下

 東大寺がイスラム教と関係があるというと、たいがいの人は「へぇー」と驚くのではないか。もちろん教義面で関係があるわけではない。寺のトップである別当(管長)も務めた長老、森本公誠さんが、実はイスラムの研究者なのだ。

 『初期イスラム時代エジプト税制史の研究』(岩波書店、日経・経済図書文化賞)、『イブン・ハルドゥーン』(講談社学術文庫)など、何冊ものイスラム関係の本を出している。

約660の説話を収める

 最新刊は『イスラム帝国夜話』(岩波書店)だ。10世紀、アッバース帝国の首都バグダードで記された逸話の数々を紹介する。登場人物はカリフ(最高指導者)や宰相から、商人や歌姫などの市井の人びと、さらにはた犬や猿まで多彩だ。それぞれにまつわる英智と狡知、驚きと笑いあふれる多数のエピソードを通して、繁栄を極めたイスラム社会のありさまを生き生きと映し出す。アラビアンナイトにも影響を与えた、イスラム世界最古の逸話集の全訳だ。上下巻で約660の話が収められている。

 1934年生まれの森本さんは15歳で東大寺に入り、違う視点から仏教を見つめてみようと京都大学でイスラムを研究。エジプト・カイロ大学にも留学した。その後、母校でイスラム史の講師なども務めたが、その時のテキストが本書だった。「人間の本質を掘り下げた本ではないか」という。(2017年7月30日の朝日新聞「ひと」欄)

日本の説話にも通じる

 たしかに日本でも、中世の「今昔物語」「宇治拾遺物語」などを読んでいると、突拍子もない話が出てきて、腰を抜かしそうになることがある。本当にそんな話があったのか、どうしてこんな話を採録したのか。説話を採集した人は、人間のバカバカしさを後世に伝えるために、こんな本を残したのではないかと思ってしまうほどだ。

 森本さんがこの本に惹かれたのも、おそらくは時代や国、宗教を超えた「人間の性(さが)」が記されていると感じたからだろう。日本からは縁遠く思えるイスラム社会だが、本書を一読すれば、そこに生きる人々は、実は我々と違わないことを納得できるかもしれない。

  • 書名 イスラム帝国夜話 上・下
  • 監修・編集・著者名タヌーヒー 著 森本公誠訳
  • 出版社名岩波書店
  • 出版年月日2016年12月23日
  • 定価本体15000円+税(上・下とも)
  • 判型・ページ数A5判・528ページ(上) 同568ページ(下)
  • ISBN9784000611725(上) 9784000611732(下)
 

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