童謡「赤い靴」の寂しげな旋律と物悲しい歌詞は、一度聴いたらいつまでも耳に残り、強いインパクトがある。
この歌に出てくる「赤い靴をはいた女の子」には「岩崎きみ」というモデルがいたとされ、その生涯はどうやら不遇なものだったようだ。歌詞では「異人さんにつれられていっちゃった」とあるが、実際には外国に渡っておらず、むしろ保護者であった外国人に置き去りにされ、日本の孤児院で病によって短い生涯を終えた岩崎きみの人生は、かの童謡よりもいっそう哀れを誘う。
小説『赤い靴~海を渡るメロディー~』(幻冬舎刊)はこの岩崎きみの生涯を現代に置き換えた野心作。彼女を現代に蘇らせた意図とはいったいどのようなものだったのか。著者の高津典昭さんにお話をうかがった。今回はその後編である。
――酒に溺れ、持病を人に話すこともできない祐一は弱い人間ですが、人は誰でもこうした弱さを持っています。彼のように自分の弱さから目を背け続ける生き方は、高津さんにとって肯定できうるものですか?
高津:これはもう完全に否定します。こんなにも弱くて娘や妻に当たり散らすような最低な人間をなぜ登場させたかというと「赤い靴」のきみちゃんのつらさを一番よく表現するのに必要だったからです。きみちゃんの悲しい人生を現代において再現するには、親としてああいう人間がいたほうがいいだろうと。
――ただ、恵理本人は自分をそこまで不幸とは思っていないように読めました。
高津:その通りです。どんな状況でも不幸を感じずに生きてしまうことが果たしていいことなのだろうかという視点はあるにせよ、きみちゃんもきっとこんな素直な性格だったのではないかと想像しています。
――そして物語は不思議な結末を迎えます。これは救いなのでしょうか?
高津:救いかどうかはわかりません。ただ、あのラストは最初に出来上がっていたんです。起承転結の「起」と「結」は最初からイメージできていました。
――今後書いてみたい小説や、計画中の小説、執筆中の小説がありましたらお話をうかがいたいです。
高津:この小説ですべて出し切った感じがあって、今書いている小説はないです。でも、構想しているものはあって、ライフワークとして武田信玄が天下を取る小説を書きたいと思っています。つまり、今とは違う歴史の物語です。
――最後に本書の内容と絡めて「新刊JP」の読者にメッセージをいただければと思います。
高津:私は自分の持病をカミングアウトしたことで、「人生って案外悪くないな」と思えるようになりましたが、この小説に出てくる祐一はそれができなかったことで過酷な人生を生きることになりました。相談すれば味方になってくれる人がいるかもしれませんから、悩みを一人で抱え込まないで生きてほしいですね。
もう一つは、人間誰しも一つくらいは特筆すべき力や秀でた能力があると思うので、それを使って人生賭けてみるのも面白い生き方ですよ、ということです。いろんな能力を秘めた人がいると思うので。
(新刊JP編集部)
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