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おうち時間の充実は「集中」がカギ 一石二鳥な「なぞりがき」のすごさ

  • 書名 『なぞりがき百人一首』
  • 監修・編集・著者名鈴木啓水
  • 出版社名U-CAN

家での過ごし方に、見えざる格差が広がっているらしい。コロナ禍の下、お菓子作りや断捨離など、アクティブにおうち時間を楽しむ人は多い。しかし、ゲームや漫画、ショッピングサイトなど、ただなんとなく眺め、目をブルーライトに焼かれる日々、という人も少なくないのではないだろうか。かくいう僕もそのひとりだ。

体とともに、気分もなんだかダブダブした感じがする。何かに集中して充実した時間を過ごしてスッキリしたい。でもスパイスカレーを作るとか、DIYとか、特別な道具が必要なものはめんどくさい...。手軽に「有意義に過ごした感」や「達成感」が得られるものがあれば、僕のおうち時間にもメリハリが生まれそうだ。というわけで、手っ取り早くなぞりがき。字もうまくなれば一石二鳥だ。

■ひたすら文字を書きまくれ!「なぞりがき」でおうち時間の充実度アップ

『なぞりがき百人一首』『なぞりがき般若心経』は、ペン字で有名なユーキャンが創刊した「おうち時間シリーズ」の第一弾。「書く」「描く」「読む」など、手を動かす楽しみを思い出させてくれる、大人のための趣味&教養ワーク本らしい。

表紙

「百人一首」とは懐かしい。冬休みの宿題で暗記させられたっけ...。今でもいくつかは覚えている。やり方はシンプルで、お手本をなぞって書いてみるだけ。とはいえ手書き自体が久しぶりすぎて、集中しないとはみ出してしまう。心地よい緊張感だ。

表紙

要所に「文字を美しく見せるポイント」がアドバイスされていて、どう書けばバランスのいい文字になるか、コツがわかるのはうれしい。

表紙

恋の歌が多い印象だが、交際に持ち込みたい男の歌、フェイドアウト気味な彼氏への嫌味とか、内容は色々だ。現代語訳も教科書っぽくなく大人の僕にちょうどいい。解説コラムも意外に深い。その時その時好きに選んでなぞってもいい構成なので、筆者は

わが庵は 都のたつみ しかぞ住む よを宇治山と 人はいふなり(喜撰法師)

という歌をなぞってみた。坊主めくりの「ババ」、坊主のひとりだ。意味は「私の庵は京の都の東南の外れ、鹿も住んでいるような山奥です。その山の名に掛けて、私を"宇治(憂し)山"と呼ぶ人もありますが...(別に世をはかなんで隠遁しているわけではありませんよ)」ということらしい。何となく、コロナ禍で家にいることが多い今の雰囲気にあっている。

次は「般若心経」。渋めなラインアップだな、と思いながらも、こっちはボールペンや鉛筆だけでなく「筆ペン」にも対応とか。なるほど。友達の結婚式の祝儀袋を書いたきりで、まだ書けるかな...。長らくペン立てに刺さったままの筆ペンで、まずはビフォー・アフターのビフォー。「色即是空空即是色」と書いてみた。んー。味はあるけどぽっちゃりした字に。

表紙

でも、なぞりがきで線の太さの感覚を掴んでいくと...。

表紙

けっこう上手になるものだ(という気がする)。

表紙

ちなみに「色即是空空即是色」には「極端な方向に走らずに、何事もちょうどいい塩梅をとりましょう」という意味があるのだそう。

練習の終わりには、コラムが載っている。たとえば「無色声香味触法(執着しがちな五感の感覚や、自身の考えへのこだわりもなくなる)」のページには

世の中にはいろいろな性格の人がいます。潔癖症だったり、せっかちだったり、激しやすかったり......。そのデコボコがあるからおもしろいのですね。(中略)個性を出しあい、自分の性質を把握して、人格を丸くし、そして人間関係をよりよくしていきましょう。少し丸まったデコボコこそが、人生をおもしろくします。(P61)

という法話が。とかくギスギスしがちな今の空気にしっくりくるお話だ。

以上、『なぞりがき 百人一首』と『なぞりがき 般若心経』を試してみた。お手本をなぞるときはまさに全集中の呼吸!他のことを考える余裕はなく、ただ目の前の一字に全神経を注ぐ。やったことはないが、瞑想とかマインド・フルネスもこんな感じかと思う。一時間ほどかけてなぞりがきした後は、心地よい疲労感と、頭の中がスッキリ澄んだ感覚が得られた。

雑用でバタバタしていたら一日が終わっていた。あるいは、何もせずだらだらしていたら外は夕方...そのたびに「あ~またやっちゃった」とヘコむなど、家で過ごすのが苦手な人は案外多いのかもしれない。僕も含めそんな人に「なぞりがき」はいい取っ掛かりになりそうだ。僕以上に家にこもりがちな親にプレゼントしたら、結構楽しんでくれると思う。

手で字を書かなくなった今だからこそ、ふとしたタイミングでしっかりした字が書けると一目置かれるかもしれない。そんな期待も抱きつつ、なぞりがきで「おうち時間の充実」と「美文字」を目指してみてはいかがだろう。

(山田洋介/新刊JP編集部)

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